(完全版Season2 01そのプリより)



 職員室から戻る道すがら、深亜は大きな箱を抱えて歩いている、男子テニス部顧問でもある教師の背中を見つけた。
 二段に重ねられた箱はその人の視界を完全に塞いでいて、そろそろと足を踏み出している姿は見た目にも危うい。
 小走りで駆け寄り、深亜は「先生」と声を掛けた。

「ああ、安藤さん」
「大丈夫ですか?」
「あはは、これは恥ずかしいところを見られましたね」
「お手伝いします」
「いえいえ、生徒に――ましてや女性に、重い物を持たせるわけにはいきませんから」
「ですが……」
「大丈夫ですよ、少し前が見えづらいだけで、っと」

 ずるりとすべりかけた上段の箱を、深亜は慌てて押さえた。

「……先生」
「いやあ、あはは……。それでは、押さえるだけでいいので、誘導お願いできますか?」
「わかりました」

 押さえながら深亜は横に並ぶ。
 箱を受け止めた感触は想像以上に重く、なにが入っているのか訊ねれば、病床にいる部長からの陣中見舞いだという。「アイスだそうで。彼らも喜ぶでしょうね」だから箱が発泡スチロールなのかと、深亜は納得した。

「先生、そこ段差があります」
「ああ、はい。ありがとうございます」

 段々と大きく聞こえてくる練習中の声に「もうすぐですね」と顧問が呟く。
 コートへ下りるための階段を慎重に踏み、手近なベンチへとようやく荷を降ろす。
 顧問の声が部員を集めている間に、深亜は箱の蓋を開けた。中には、保冷剤と一緒に種類も様々なアイスが、ぎっしりと詰まっていた。

「安藤さん、ありがとうございました」
「いえ」

 緩く首を振り、それではと一礼をして踵を返そうとした深亜を「ああ待ってください」と呼び止める声がある。
 振り向けば、にこりと微笑みつきのアイスを差し出される。

「はい、どうぞ」
「あ……あの」
「ああ、これじゃない方がいいですか? でしたら……」
「あ、いえ。それで大丈夫です」

 戻そうとする手を留め、深亜はアイスを受け取った。
 パッケージを見るに、持ち易さから選んでくれたのだろう。
 しかしそれより、一袋に二本入っているらしいことや、なによりチョココーヒーの文字が、深亜には引っかかった。
 どうしたものかと、視線を彷徨わせれば、ひとりの部員の姿が目に入る。
 レギュラーを除き、深亜が名前を覚えている部員はそういない。
 ――彼には悪いが、協力してもらおう。

「そこの君――浦山くん?」
「へ? は、はいでヤンス!」

 浦山しい太――部長をはじめ、レギュラーの覚えもなかなかめでたい、期待の新入生……だと聞いた。

「すみませんが、これ、半分もらっていただけますか?」
「いーんでヤンスか?」
「食べ切れそうにありませんし……それに、甘い物はほとんど口にしない性質なんで」
「へぇ〜、女の人ではめずらしいでヤンスね?」
「そう、かもしれませんね」

 苦笑気味に言って、二つに分けた一方を手渡す。
「ありがとうございます」と軽く頭を下げた浦山は、手にしていたテニスボールに気づき、アイスを咥えたまま慌てて走っていった。
 その背を見送り、深亜も封を切ってアイスを口にする。
 冷たさと甘さが舌を刺激し、頭にまでそれは響く。

「……甘」



パピコちゅーちゅーしませんかー。


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