「気にしないでいいから」

 こちらを一瞥もせずそう言ったきり、彼女は口を閉ざした。
 部屋の隅で蹲り、耳を塞ぐよう頭を抱えている。
 どうかしたのかと、訊ねても彼女からはなんの反応もない。
 しばらく時間を置き、千歳はベッドから腰を上げ、そっと彼女へ近づく。
 彼女の目の前に膝をつき、ただ黙って彼女を見つめる。
 気配に気づいた彼女が顔を上げた。
 その頬に殴られた跡を見つけ、千歳は目を瞠った。

「なんがあったと?」
「っ……」

 一瞬だけ、傷ついた顔をした彼女は、なにも答えず千歳の胸に縋りついた。
 シャツを握り締め、伏せた顔を寄せる。
 静かすぎるほど、細く頼りなげな肩が震え出す。

「ふっ……ぅ、っ……」

 彼女の肩を抱き締めることの叶わない現状がもどかしい。

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