うっすらと瘡蓋になっている傷痕に、千歳は無言で舌を這わせる。
 すぐに治るから、平気だと、本人は言ったが、肩口に貼られたガーゼを見るたび、千歳は苦い思いを味わった。
 ちゅっ、と吸いつくと、かすかに深亜の肩がはねた。
 いくら深亜が大丈夫だからと言っても、当の千歳自身が己の行為を赦せていない。
 彼女を傷つける者は、誰であろうと赦せない。
 それなのに千歳の背にその腕を回すから、千歳のすべてを知った上でなお、そのすべてを包もうとする深亜に、千歳は泣きそうになる。

「千里くん……もう、大丈夫だから……ね?」
「……俺が大丈夫じゃなか」

 ふふ、と彼女が笑った吐息が耳もとを掠めた。

「わたし、嬉しかったんだよ」
「傷ばつけられたんに?」

 信じられないと言わんばかりの反応に、また彼女が笑った。

「いつも千里くんは優しいけど……ちょっと、怖い千里くんも、見せてくれて嬉しかったの」

 彼女にはきっと、一生適わない。

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