目の前を通り過ぎていく人の群に、深亜は怯えた目で辺りを見回す。
 俯く顔には誰も見覚えがない。
 みな一様に口を閉ざし、同じ方向へ歩いていく。
 その中でただひとり立ち止まったまま、深亜は視線を彷徨わせる。
 不意に深亜は目を留めた。
 縺れそうになる足に構わず、遠ざかっていこうとする背を追いかける。

「待って……千里くん……っ!」

 置いていかないで、と深亜は叫ぶ。
 振り返る千歳に手を伸ばすも、なぜかその手は届かない。
 涙が千歳の姿を滲ませる。

「お願い、行かないで……わたしを置いて、行かないで……っ」
「――深亜」

 ふわりと、深亜を包むぬくもり。
 優しい声が、深亜の心を締めつける。
 もはや感じることの叶わない千歳の存在に、深亜は止め処ない涙を流す。

「置いてかないで……わたしも一緒に、連れてって……」
「……それはでけんよ」
「嫌……っ。ひとりぼっちにしないで……わたしも、千里くんと一緒に」
「深亜」

 強い口調に深亜の言葉は遮られた。

「深亜はひとりぼっちじゃなかよ……周りんみんな、深亜んこつば心配しとるけん」
「千里、くん……」
「それに、深亜が生き続ける限り、俺も深亜ん中で生き続ける……ずっと一緒ばい」
「っ、ぁ……ふ、ぅ……」

 それ以上、深亜はなにも言えなかった。
 離れていくぬくもりに握り締めた手が震える。

「深亜には、生きとってほしかけん……さいごまで、自分勝手ですまんね」


 + + +


 目覚めた深亜の頬を、冷たい涙が伝い落ちた。
 伏せた目蓋の裏に、さいごに見た千歳の微笑みが浮かぶ。



零 〜刺青の聲〜 EDをイメージ。
何回観てもぼろ泣き。


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