切れた口端に消毒液が沁み、短い声がもれた。頬に添えられていた指がかすかに跳ねる。

「い、痛かった……?」
「んにゃ……へぇきだけん」

 そうは言われても、深亜の手はより気遣わしげに千歳の傷に触れていく。

「……どうして?」
「え?」
「どうして、こんなこと……」

 手当を終えた傷にガーゼの上から指先を当て、深亜は泣きそうに眉をひそめる。

「…………」

 そんな彼女に、理由を話せば間違いなく泣かせてしまう。
 しかし彼女は「わたしの、所為?」と千歳の目を見つめる。
 千歳は驚くしかなかった。

「なんで……」
「白石くんが――詳しいことは、教えてくれなかったけど……わたしのために、千里くんはあんな風に怒ったって……」

 余計なことをと内心で舌打ちする。
 予想通り、深亜の双眸からは今にも涙があふれてしまいそうで。
 千歳はそっと、深亜の頬に左手を伸ばす。

「深亜……」
「わたしなんかのために、お願いだから傷つかないで……」

 うっすらと赤くなっている千歳の左手に、深亜は自分の手を重ねる。
 頬を伝う涙が、互いの手まで濡らしていく。
 千歳は腕を伸ばし、深亜を胸に抱き締めた。

(――“深亜なんか”て、思えるわけなか)

 きっと、恐らくまた彼女を泣かせてしまう。

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