右手を掴んだ深亜の唐突な行動に、千歳は少しだけ驚いた顔で振り向いた。
人目もない室内にふたりきりだとはいえ、彼女の方から自身に触れてくるなど滅多にないことだ。
左利きの人間と接するうちに、相手の右側が定位置となった深亜は、今も千歳の右手を左手で遊ばせている。「なん?」と訊ねれば、右手を見つめていた視線が上げられる。
「なにが?」
「いや……」
それはこちらの台詞なのだが。
「俺ん右手になんかあっと?」
「ああ。別に、そういうことじゃない」
なにもないと言う深亜は、変わらず千歳の手をいじっている。
指と指を絡めるように繋がれ、まるで心臓を握られたみたいに動悸が起こった。
無自覚はこれだから恐い。
「あの、深亜サン?」
「……大きい」
「へ? あー、そりゃあ、まあ」
周りを見下ろすほどのナリで、手だけが小さいというのもおかしな話だろう。掌を合わせる深亜との差はふた回り以上ありそうだ。
目線に掲げた手を、深亜は見つめる。
「わたしのことなんか、簡単に壊しちゃえそう」
ぴく、と千歳の肩の揺れが掌から深亜にも伝わる。
だがその反応が見えていないかのように、深亜は重ねた手を見つめ続ける。
「ちょっと力を入れれば、わたしの身体なんて」
「深亜」
静かに、千歳は彼女の名を呼ぶ。
先の深亜と同じく、今度は千歳の指が深亜の指へと絡む。
「俺は、深亜にそげんこつでけんたい」
「…………」
じっと、目を見据えてくる深亜に、千歳は困ったという顔で微笑う。
白く、熱のこもらない頬に左手をすべらせれば、自然と目を閉じる深亜に、ゆっくりと顔を寄せる。
優しく唇を食み、触れ合わせるだけのくちづけを交わす。
無意識にか、繋いだ手に力を込める深亜に、千歳もやわく深亜の手を握り返した。
繋がったそこから、気持ちまで伝わればいいのに――
ちゅっ、と下唇を吸い、千歳は顔を離した。
わずかに息を乱した深亜は深く息をつき、徐に目を開く。
その瞳は、真っ直ぐと千歳を捉える。
「――いいのに」
頬に添えられた千歳の手に手を合わせ、深亜は目を伏せた。
「千里だったら、壊してもいいのに」
千歳はなにも言わず、ただ苦笑する。
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