その大きな男と出会ったのは、中学に入って最初の部活動の日だった。
 男子と女子の違いはあっても、同じテニス部同士。
 クラスの垣根を越え、よく話す仲になるまで、そう時間は掛からなかった。
 その大男――千歳は、身体的においても周りの男子から抜きんでていたけど(中一で身長が一八〇超えとかなんなんだ)、まとう雰囲気というか空気というか、とにかく千歳はほかの男子とはどこか違っていた。
 特に、空を見上げている千歳は、誰も近寄らせなくしているような、そんなオーラを発していた。
 今日の天気は曇り気味。
 太陽がないせいで、冬の風は冷たさを増しているように思える。

「なんが降ってくると?」

 そして、今日も千歳は空を見上げている。
 声を掛けた私に視線を移す千歳は、なんでか苦笑していた。

「……今日、大阪は雪だと」
「ふぅん……?」

 そりゃ、市内はめったに雪なんか降らないけど、なんで引き合いに出すのが大阪?
 千歳はもう顔をもとに戻していた。

「…………」

 空を見上げる千歳の横顔は、どうしてだか泣きそうで。
 けれどそれ以上に、その顔には優しい笑みが浮かんでいて。

「風邪ば引いとらんとよかばってん……」
「……誰が?」

 その声に反応して、千歳がゆっくりと振り向く。
 優しい笑みが浮かんだままの顔。
 私に向けられる目は、けれど違うものをはじめから映していたんだと、ようやく知った。
 その目には、私じゃない誰かが焼きついている。

「俺の大切な子」

 優しい笑顔に、優しい声に。
 私の心臓は、ぎりりと握り潰された。
 ――ああ、なんだ。
 私は、千歳が好きだったんだ。
 好きなんだ。



獅子楽中時代。


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