マナーモードにしていたケータイの、突然のバイブ音に、わたしはわずかに心臓を跳ねさせながら慌てて振動を止めた。
 着信なんて突然来るものだとは頭ではわかっているけど……心臓に悪い……。
 なるべく静かにケータイを開き、受信されたメールを開封すれば、送信者の欄にはクラス委員の彼女の名前。
 短文なそれをさっと読み、了承の意を示す、短文なメールをこちらも送り返した。
 ケータイを閉じ、目線を下げ、わたしはほっと息をついた。
 さらり、と吹いた風に髪を撫でられる。
 お昼休みの裏山では、時間がゆっくりと流れているように感じられた。
 頭上からは葉擦れの音が降り、背中をあずける古木は心地よいぬくもりをもっていて、彼がここにとどまりたくなる気持ちも、なんだかわかる気がした。
 そんな件の彼は、今は目を閉じ、少しだけ幼く見える寝顔を見せていた。……わたしの太腿の上で。
 いわゆる、膝枕。
 はじめこそ恥ずかしくて抵抗のあったこの行為も、今では彼の寝顔を楽しめる余裕まで出てきていた。慣れって怖い。
 彼のくせっ毛に指を入れ、意外にパサついている髪を梳き遊ぶ。
 確かに、あまり髪のお手入れに気を遣っている印象はないけど……お肌は綺麗なんだよね。あ、でも唇が荒れ気味です。
 ふふ、と笑い声をこぼすと、それが眠っていた意識に届いたかのように、小さく唸った彼が身じろいだ。
 素肌に触れる髪がくすぐったい。
 動いた拍子に彼の顔に掛かった髪を指で払い、そのまま、彼の頬を指先でつついてみた。
 やっぱりすべすべ……ちょっと、憎らしいと思ってしまったのはここだけの話。
 頬をつついても彼が起きないのをいいことに、前々から気になっていた左耳に指をすべらせた。控えめに光るピアスに、恐る恐ると指を伸ばす。
 わあ、貫通してる……当たり前だけど。

「痛くなかったのかな……」
「くすぐったかよ」

 あっ、と手が止まる。
 その手を捕らえた彼は、やわらかい微笑みとともに目を開いた。

「起こしちゃった?」
「んにゃ、起きとった」

 笑いをこらえるのに苦労した、と頬をさする彼に、いつから起きていたのかと自分の行動を思い返して恥ずかしくなった。

「千里くん、意地が悪いです……」
「寝込みば襲われるかと期待しよったばってん」
「し、ま、せ、んっ」
「ははっ、残念ばい」

 そう言って、ことん、と寝返りを打った彼は、「あ」と真下からわたしを見上げてきた。

「昼休み、もう終わるんじゃなかと?」
「五時間目は自習になったって連絡来たから、大丈夫だよ」
「そんならよかたい」

 と、彼はにこにこと相好を崩す。
 …………。
 なんとなく、雰囲気が違うと、そんな彼に首を傾げているわたしに、彼は腕を伸ばし、

「抱き枕が欲しかとです」
「……しません」

 その、返答までのわずかな逡巡をどう取ったのか――

「“ここでは”?」

 更に深まった彼の笑みに、わたしはなにも言えず、視線を逸らすしかなかった。

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