がーっ、と鋭い歯を剥き出しにフカマルが吼える。
しかしいくら凄もうとも、相手のヤドンはとぼけた顔で首を捻るばかり。
もとよりフカマルは我慢強い方ではない。早々に堪えきれず、その歯をヤドンのしっぽに突き立てたところで、気づいた深亜が慌ててフカマルに制止を掛ける。
「こ、こらフカマルっ、止めなさい!」
目の前の間抜け顔は気に入らないが、慕っているあるじの命ならば仕方がない。
フカマルはぺっ、としっぽを放し、短い腕を振って深亜へと駆けていく。
しゃがみ込んだ深亜はフカマルを受け止め、厳しい顔つきを意識しながら無邪気な顔を見つめる。
「無闇に噛みついたら駄目って、教えたでしょう? ヤドンくんはお友達なんだから、仲よくしなきゃ」
ぶんぶんっ、と否定するよう、フカマルは強く首を振る。
「ヤドンは応えとらんけん、そぎゃん怒らんでよかよ」
「――千里さん」
ヤドンを拾い上げ肩に乗せた千歳は、深亜の腕の中から自身を睨みつけているフカマルと目線を合わせるべくしゃがみ込んだ。
「こんくらい警戒心の強か方が、ボディーガードとして優秀たい」
な? と頭を撫でようとした千歳の手に、フカマルは容赦なく噛みついた。
「だー!」
「フ、フカマルっ!」
気に入らない者は、たとえあるじと親しい仲だとしても噛みつく。
それが、彼女を守る最善の方法だと、フカマルは考えている。
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