もしもビッグマムの第一子だったら3

「あーもうっ!ナマエ姉、これ!どうにかしてくれ!」
「あー…はいはい。恒例行事だねー」

ママの目的のこともあって、わたしたちはいろんな場所のいろんな人と会う機会がある。だから少し離れた場所でも流行り病なんかが出るととても用心しなくてはならないし対策を取らねばならない、いくらママの子たって子どもの身体は貧弱だ。つまり何かってーと、予防接種のお時間です!

「くらっかぁ」
「…う゛────…!」

はは、あんなに大きくなってもダメなもん、こんなチビちゃんじゃあもちろんダメだよねえ。



「ほら、お姉ちゃんがずっと一緒に居てあげるから。終わったら好きなだけお菓子を食べていいし、ちょーっとガマンするだけだよ?」
「う゛───…」
「カスタードもエンゼルも終わったみたいよ?クラッカーは強い子だから痛いのイヤでも怖くはないでしょ?あとでママに怒られるほうがずっと怖いし、病気になっちゃったらずっと苦しいよ?」
「う゛───…!」
「んー…じゃあ、終わったらお姉ちゃんとお昼寝しよ?今日はお姉ちゃんずうっとクラッカーと一緒に居てあげるよ、お菓子もおにぎりも作ってあげるし、本も読んであげる」
「う゛…う゛───…!」

おっ、前回はこれで頷いたんだけどな。タオルケットにくるまって手だけわたしの服を握りしめて、ぐずぐず泣きながら首は左右にしか振らない。徐々に慣れさせていくつもりだったのになぜか毎度条件は増えていくばっかだし、しかも今回は一段とイヤイヤちゃんだ。前回当たった新人ナースが余程トラウマになったらしい。ナースさんは悪くないけど…ちょっと気遣ってほしかったんだよな…。わたしが構うことを条件に出すと他の弟妹たちに白い眼で見られるし、それでもこれ以上わたしに出せる条件はないんだけどなあ。クラッカーより下の子たちもなんだかんだちゃんと受けてるしな…あ、悲鳴。分かりやすくビクつく腕の中の弟。あー、悪手ェ。

「…ナマエ姉、もういいだろ、無理矢理連れてっちまえば!ナマエ姉も構いっきりで疲れるだろ!」
「ダイフクー…ありがと、でもお姉ちゃんは大丈夫だよ。無理矢理打つと来年もっと嫌がるからさ?」
「でも、だからってクラッカーだけ特別扱いはズルいだろ!おれたちだってっ、ちゃんと受けてるしっ」
「そう、オーブンたちは偉いのよ?特別扱いはよくないってのは…分かるんだけどねー…オーブンもまた一緒におやつ食べようね?」

うんうん分かりますよ、ちゃんとやってる子が放置されるのって理不尽ですよね。あとでみんなちゃーんと構い倒してあげようね。今はクラッカーをどうにかしなきゃな。脅し系は最終手段にしたいんだ、悪印象が募ると逃げるっていう手段を取り出すかもしれないし。お医者さんだっていつまでも居られるわけじゃないし、この世界のワクチンは完璧な管理をされてるわけじゃないから逃げ切られたら打てなくなってしまう。痛い目みるのはクラッカーなんだよ?泣きつかれているのか、それでも力無く首を振り続けている。そんなにか。このまま眠ってくれたらその間にって思ったこともあったけど、寝てても針刺すと速攻起きちゃったのな。

「姉さん、他はもうみんな終わったわ」
「おー、ありがとうアマンド。いいこいいこ」
「うん」

アマンドはお利口だね!女の子のほうが成長早いって、下がいっぱいいるとよくわかる。照れているアマンドはかわいい。

「さ、クラッカー。覚悟はいーい?あとはお姉ちゃんと、クラッカーだけ」
「う゛────…!!」
「…ふむ」

お姉ちゃん、実はそんなに気が長くない。うーんじゃあどうすればいい?降りてこい現代日本人の知恵!注射は怖いと思い込んでいるちびっ子の…思い込み?自主解決した。確かに、結局自分で思ってる以上のことは受け入れられないんだよね。拗らせると自殺を偽装する13女が生まれたりするわけだけど…それに比べたらクラッカー全然かわいいな。

「クラッカー?」
「う…」

タオルケットに手を突っ込んで、ほっぺを固定して目と目を合わせる。

「クラッカー、お姉ちゃんのことすき?」
「う…?う、ん」
「じゃあ注射は?」
「えっ、ぐず、きら」
「すき?」
「う!?」
「お姉ちゃん、注射すきだよ?お姉ちゃんのすきなものクラッカーはきらいって言ったりしないよね?」
「あ…う、う、」
「ねえクラッカー」
「う」
「注射、すき?」

蒼白になりながらこくりと頷いた弟を思い切り抱きしめてめちゃくちゃ褒めながら診察室へ入った。言霊っていうのはあるもんですよ?好きって言い続けたら、いつか好きになるかもしんないじゃん!わたしったらナイスアイディアー!ちゃんと褒めるのは躾の基本だし!ちゃんと注射できて偉いね!よっ未来のビスケットの騎士―!





「遠征先、結構流行ってるらしいねえ。予防接種は済ませたのクラッカー?」
「あ……ああ、これ…から、」
「そっかぁ。偉いねクラッカー!クラッカー注射すき?」
「う…、す、すき…だ!」
「うふふふふ!そっかそっかー!クラッカーは良い子だね!」
「ん…っ」

ちゃんと実を結んでお姉ちゃん嬉しいです!注射が怖くなくなったら他に必要があって痛い思いをする場面はないだろうし、いやあ良かった良かった!って思ってたら他の弟妹たちに「クラッカーの性癖が歪みそうだからそろそろ止めてやって…」って言われたんだけど、いやわたしクラッカーにそういう手出しした覚えないぞ!?何の話だよもう、濡れ衣にしたってひどすぎるぞ!



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