正午の憂鬱

「無茶だあ」
「何を無茶なことがあるか。このおれのビスケットだぞ」

いいや無茶だ。そして無理だ。目の前にうず高く積まれたビスケットは、優にわたしの身長を越している。ああ、また増えた。クラッカー様はわたしにこれを食べろと言ってきたのだ。なんでかは知らん。本当は三将星であるクラッカー様に無茶だなんて口は独り言でもきいちゃいけないのだろうが、考えるより先に出てきてしまったのだから仕方ない。そしてやっぱり、本当に、本気で、どう考えても無茶だ。いくら私が真のビスケット好きだとしても、限度というものがある。好きなものは量があればいいというものではない。食べ物は特に、自分に最適な、美味しくいただける量というものが存在する。それ以上を食べることは作業化してしまって楽しくないし美味しくないし何より食べ物に申し訳ない。それを、なんでこんなイカツいオッサンに見下ろされながら強要されねばならないんだろう。あ、いや、我々の平穏を守ってくださっているクラッカー様だというのは承知の上でね?まあ口に出してないからフォローなんかしなくてもいいんだけど。いやいやよく考えればなんでそんなすごい人が一市民であるわたしにビスケットを強要してくるの?わたし今朝も食べたよビスケット。近所のちびっこから分けてもらって。あれはどこのビスケットだったんだろう?この島の店は制覇したと思っていたんだけど、どこの店のビスケットでもなかった。この私が言うんだから間違いない。でも形からするにどこかの家庭のものとも思えないのだけど。それにずば抜けて美味しかった!広場に響くくらい大きな声で褒めちゃうくらいには美味しかった。わたしは今あの味を舌に残しておきたい。よってこんなに大量のビスケットは、いつもなら嬉しいけど今日は食べたくない。クラッカー様は間が悪い。ああ、また増えた。いらないんだって!



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