価値観のズレはこわい

高専五条×高専夢主
任務後のお昼ご飯 1600文字程度



 ジュウ、と燃えるように尽きた呪霊の消滅音につられて、意図せずはあ、と安堵の溜息が漏れた。数は多くとも三級程度の呪霊の集合体で、広範囲の術式を使用すれば対して時間もかかる事無くあっという間だった。残りのしらみ潰しも終わり、隣で「あー終わった終わった」と呟きながら肩を鳴らす悟も、流石にいつもよりも余裕そうに見えた。
「ざっこかったなー。束で掛かってきてコレか。名前でも泣かないくらいのよえー奴ばっか」
「お疲れ。私は泣かないよ、歌姫センパイじゃないし」
「お? 今の、歌姫が聞いたら怒んじゃねぇ? 録音しとけばよかった。もっかい言って、今ケータイ出したから」
「ちょっと! 録音だめ! センパイ怒らせたらめんど……怖いんだから!」
 たまにはオマエも怒られろよ、と笑いながら言う悟に、任務後の緊張がほぐれていく。同学年でも、なんだかんだ悟とはセットで任務に駆り出されることはあまり無いから、悟の術式に合わせての戦闘はまだ緊張する。傑、一人の任務大丈夫かなぁ。まぁ強いから心配するまでもないかもしれないけど。
「はい、ココ一帯殲滅、任務完了でしょ。メシ行こーぜ、昼飯」
「え。この辺の美味しいとこ知ってるの?」
「俺がいつも行く寿司が近い」
「お寿司!!」
 突然目の前に出された魅力的なワードに、つい悟の顔をじっと見つめた。お寿司行きたい、連れてってと言わんばかりの熱い目線を送る私に、「おー、じゃあトぶ≠ゥら捕まっとけよ」と自然と私の下乳を触ろうとするから、その下心満載な手を遠慮なくツね……ろうとしたけれど。思った通り、無限で私からは悟に触れられなかった。なのに、私の身体に触れている内側部分だけは無限を解いているのか、しっかりと抱えられた悟の腕から体温が分かる。こんな器用さはいらない。ヘンタイ、スケベ、と小さく悪態をつく。もう慣れてしまった私もいるけれど、教育上やっぱり躾直さないとな……なんてぼんやり考えていると、「行くぞ」という言葉と共にふわっと身体の浮く感覚が訪れる。ジェットコースターの落ちる感覚と似たような、一瞬の怖さがあって、思わず瞼を強く閉じた。
 
  ◇
 
 浮いた感覚が無くなって、両足が地面に着いた。そのまま目を開けると、高いビルの日陰に立っていた。日がささない分、頬を撫でていく風が少しだけひんやりしている。知らない景色に目線をうろちょろ移動させると、「コッチ」と腕を引かれた。素直について行くと、ビルの狭い隙間から歩道の整備された大通りへと出た。けれど、目前の景観から、高校生等が訪れる場所ではない、と言う思考が一瞬よぎる。
 見渡す限り、私でも知っているブランドの名前が描かれた専門店の数々。洋服だったり、コスメだったり。色んな意味でキラキラして眩しすぎる道を慣れたように突き進む悟に、焦りながら「ちょっと待って」と声をかける。

「何? もう着くけど」
「あの、此処どこ? 明らかに私たちみたいな学生は浮いて……」
「銀座だけど?」
「銀座!?」
「あ、つーかもう着いた。ココ」

 そこには、見るからに高そうな敷地で、見るからに回らなそうな暖簾のかかったお寿司屋さん。ひっ、なんていう悲鳴が思わず出てしまった。高校生が行くお寿司って、回るやつじゃないんですか。
 さとる、わたし、ぜんぜんおかねもってない、と片言の私を不思議そうに見つめる悟は、「別に、俺持ってるからいいけど、なんでそんな冷や汗かいてんの?」と本気で意味がわからなそうに話していて、ああ、そういえばこの人、御三家のボンボンなんだよなあ……と思い出したのだった。慣れたように入店する悟に半泣きで着いて行き、お店の大将さんみたいな方に対して顔パスの悟を見て、その事実を再び痛いほど実感することとなる。
 ちなみに会計時の金額は恐ろしくて見れなかったし、はじめての高級すぎるお寿司は、緊張して味も良く分からなかった。悟はそんな私を見てケラケラ笑うだけで、このボンボンに「普通」を教えることに尽力した話はまた今度。




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