Grazie Mille!!








*giogioメロイル


『妙な事抜かしてんじゃあねぇ』
どうにもすげないその言葉は、絶対の拒絶を貼り付けた顰め面から矢のように放たれて、俺の胸をざっくりと突き刺して落ちた。春のうららかな陽気にまるきり似つかわしくない鋭利さで以って。撃墜。炎上、爆死。それが一度目だった。
二度目は重たく圧し掛かる曇天の下で、言葉は流れ落ちていく雨の雫に紛れる様にするりと滑り出た。傘を忘れた哀れな白いシャツをじわじわと侵食する水気みたいに、それが彼の内に染み込んでしまったらいいのにと思っていた。現実には俺の言葉はきっと雨粒なんかじゃあなくてべとべとの油だった。濡れていく薄い布地が透かした向こうに、諸々の劣情だけが虚しく残った梅雨の夕方の事だ。
三度目にはとうとう言葉さえ返ってこなかった。日に焼けられないその顔一杯に「死んじまえ」と書いてあったのは、じりじりと影を石畳に焼き付けていく熱のせいだったと思いたかった。背を向けてから彼はそれを心底だるそうに声に出した。俺宛である事はもう疑いようが無かった。サンダル履きの足が汗でぬめりと滑って、追い掛けることも出来ないまま八月が終わった。
四度目にそれを伝えたとき、彼は面倒くさそうに溜息をついた後、徹夜明けの眠たそうな顔でぼそりと、『なんでだ』と言った。月のぽっかりと浮かぶ空が高くて、夜が広がっていこうとする色は彼の眼のそれに良く似てどきりとした。俺は言葉に詰まってしまった。なんで、どうして、そんな事はいくらでも説明できるつもりでいた。彼の何をうつくしく思い、どんな仕草に胸を高鳴らせ、果てはなんどきそこにリビドーを感じたのかまで、詳細に。ところが実際には何も言えなかった。石でも飲み込んだみたいにつっかえて、ひゅっと息を呑んだ音だけが残った。たぶん、そういう事じゃあなかった。そんなものをいくら並べたってどこにも正解は見つかりそうになくて、きっと彼が聞きたいのはもっと根本的な、『なぜ』だったに違いない。不恰好に口を開けっ放しで突っ立っていた俺は、やっとの思いでそれを口にした。すなわち、説明できないと。
呆れたみたいに眉が下がってから、今にも何か酷い事を言おうとしてる唇が開くまでの間に俺が捻じ込む事の出来た言葉はこれだけ。『でも、絶対に証明するから、キミに』開きかけていた唇からはにべもない拒絶が返ると思っていたけれど、どことなく小馬鹿にした感の笑みと一緒に、意外にもずっと優しいような台詞が零れた。
『おまえ、やっぱおかしいぜ』
拒まない。それはまさしく、福音だった。


何度目になるのか、それを数えるのを俺は途中で止めてしまった。だけどいつか彼が頷いてくれる日が来たら、尋ねてみようと決めている。なんとなく、その答えを彼が知っているような気がしている。どこにも理由なんかない。説明なんてできなくったって良かったのだ。どれだけ役に立ちそうな言葉を掻き集めて示そうとしても、知りたかったのは内側のやわい部分でしか知覚できない、そういうものだからだ。

それでも毎日言葉を贈る。そういうやわいものをそのまま声にするみたいに。そうしたら指先ひとつひとつまで全身を回って、俺の触れたところから、成した事のすべてから、彼の内側に染み込んでいつか、わかるときがきっと、来る。
「イルーゾォ、愛してる。結婚してくれ」







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