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 異変に気付いたのは腹の子の母親だった。
 
 
 
「退屈……」
 葉山桜は薄暗く古めかしい屋敷で小さく息を吐いた。ふすまで閉ざされた奥座敷は陽の光は老朽化した木々の隙間から漏れるだけである。大正時代から手入れをしながら住んでいるという木造の平屋建て。部屋が何十個もある大きな家は桜にとって最初は広すぎた。使用人が何人もいて部屋の作りが似ているせいか最初の頃は迷ってばかりいた。一般家庭で育った桜とは大きさがまるで違う。
 華道の家元である旦那の実家は裕福で五千名を超える流派だった。そのことに不満はない。堅苦しい義親と住むのも旦那のおかげで苦ではない。旦那の義明は堅苦しい流派に囚われず近代的で革新的な花を生ける。
 出会いも、恋に落ちたのも全ては花のおかげである。
 義明は明るく優しい。
 古い家柄の姑たちは身分が違うと最初は結婚を渋ったが、義明はならば俺が新しい流派を作ると言い出して、泡を食った姑たちは慌てて跡取りを引き留めるために結婚を承諾した。数年経った今では姑も義父も桜に優しく接する。それも義明のおかげだろう。
 だが、今回の仕打ちには桜は堪えている。
 それも桜が妊娠してからである。
 妊娠が発覚してから姑や義父はとても喜んだ。だが、桜がお腹の子が蹴ってこないと不安を口にすると急に張り詰めた表情をして奥座敷に居ろと閉じ込めた。
 ふすまで閉ざされた部屋は今どきあり得ないほど懐古的だった。
 テレビもなく、電気も通っていない。明かりは蝋燭の火だけ。しかも陽に当たるなといって暗がりで生活をしている。食事はつわりのせいでろくに楽しめない。自然と物を口にしなくなっていた。夜は虫の音とむせ返るような甘い花の匂いが漂うばかりで桜は気が狂いそうだった。
 古いしきたりで閉ざされた華道の家元であった夫のお家柄というのだろうか。桜の一言で義明にすら滅多に会えなくなったのである。新婚ではないにすれ、寂しくて座敷から出たくなる。
 だが傍に居る産婆が許さない。いつも部屋の隅で桜を見張って外に出ようとすると咎められる。トイレにも付いてくるのは流石に驚いた。
 口が重いしわの多い産婆がつきっきりでは息がつまりそうだった。ため息を一つでも吐けば、産婆がやってきていい薬があると苦い漢方を飲まされた。何もできない日々というのは本当に苦痛だ。
 だが、出産さえ済めば元通りの生活が送れるというのでそれを必死に縋って耐えた。十月十日さえ過ぎれば、元の生活に戻れるのだ。
 腹の子は今でも蹴らない。腹も膨れ、産婆ももうすぐだろうと言うのにどうしたことだろう。医者にも診せには行かせてもらえないので不安ばかりが募る。
 ――もしかすると死んでしまっているかもしれない。
 ゆるりと腹をなでる。
 こんな状況になっても自分の子は愛おしい。もう名前も義明と一緒に決めている。
「ねぇ、椿。早く出ておいで」
 椿と呼ばれた子の反応はない。少し虚しくもあり、楽しみでもあった。
 今、産婆は朝餉を持ってくると出て行ったので一人だ。つかの間の一人にホッとする。
「外に出たい……」
 ふすまの外では春に近づいているはずである。だから、虫の音聞こえてくるのだ。薫り高い花の匂いが強いのも納得できるのだが、こんな場所に閉じ込められていては季節感など忘れてしまう。
 ふすまによたよたとすり寄る。これを開けるだけでいい。それだけで心が癒されて、庭園には色とりどりの花が開いているはずなのだ。
 戸に手をかける。開けるより前にふすま越しい声がかけられた。
「駄目ですよ、お姫様」
 一見茶化して言ってくるテノールの声。その声を聞くだけで胸の中のしこりが溶かされていく。
 見上げると整った顔立ちがのぞいてきた。声が耳に優しく響く。桜は微笑んだ。
「義明!」
 義明は柔らかい笑みでふすまを閉じて座り込んでいる桜の頬に触れる。桜はうれしくて頬を手にすり寄せた。
 その様子に義明は笑う。
「よく頑張ってるね」
「ええ、あなたがいなければ気が狂いそう。もう春なんでしょう? 庭からいい匂いがしてくるの」
 桜の言葉に義明は目を見開いた。
「いや、まだ冬だから特に咲いてはいないよ。あるのは――椿だけだ」
「うそ、とてもいい匂いがするの。虫の音もするし」
 すると義明の表情が陰る。寒椿が開いているということはまだ冬なのだ。そのことにがっかりしながら疑問が残る。じゃあ、この甘ったるい匂いは何なのだろう。
 義明はどっかりと桜の前に座り込んで両手で顔を包んだ。
「あの化石婆につきまとわれて疲れてるんじゃないか?」
 あんまりな言い方に桜は思わずクスリと笑う。
「まあ、参ってはいるけど、心配するほどじゃないわ。ただ……」
「ただ?」
「外が見たい。どれくらいの時間が過ぎたのかわからなくて不安になるの」
 自分だけが置いて行かれているような、時が止まったような感覚。それが不安で不安でならない。
 義明は茶目っ気のある笑みを浮かべ、桜の手を取りふすまを開けた。
「じゃあ、探検と行こうか姫。こんな所じゃ子にもよくない」
 そして義明は庭までの道のりを桜の手を引いてゆったりと歩いた。そして最後の隔たりであった戸を開くと光が桜の目を焼いた。
 まぶしい。けれど慣れてくれば目を開くことができるようになってきた。
 外は一面銀景色だ。雪に埋もれて花や虫などの気配はない。勘違いだったのだ。確かに甘い匂いがいているというのに。ヒヤリとした空気が頬を突っ張らせる。
 ただ、白の中に異彩を放つ鮮血のような真っ赤な寒椿が咲いている。甘ったるいにおいを放っているのはあれだろうと推測できる。
「寒椿……」
 ぽつりと桜がつぶやくと義明は少し苦笑いをして言った。
「あれは、一年を通して咲いているからな。狂い桜の亜種みたいな?」
 謂れがあるのは知っていた。だが、義明も詳しくは知らないらしい。けれど、花が落ちたことがないというので縁起がいいといわれていた。
「ねぇ、私が本当に名前決めてよかった?」
 一瞬、きょとんとした義明だが、すぐに笑みを浮かべる。
「ああ、俺じゃいい名前なんて思いつかなかったろうし」
「よかった」
 安堵して息を吐く。するとものすごい勢いで足音が近づいてくる。振り替える間もなく桜は首根っこをつかまれた。
 振り返ると鬼の形相をした産婆が義明を睨みつけ怒鳴りつけていた。
「あなたは何をやったのかわかっておるのですかっ!」
 真正面から怒鳴りつけられた義明はむっとする。
「妊婦にあんなところに閉じ込めるなんておかしいだろう? 何が悪いんだ」
「全てです! これで、無事に生まれてくるのか分からなくなりました」
 義明が首をかしげる。
「どういうことだ」
 だが、産婆は答えず、桜を暗がりへと連れていく。
「あなたはまるでこの家のことがお分かりでない。貴方が無事に生まれてきたのは幸運だったのですからね」
「どういう意味だ?」
 すると産婆はヒヤリとした目つきで義明を見た。
「知らなければいいこともある」
 桜は産婆に引っ張られて、暗がりへと戻っていく。
 まるで引き裂かれていくようだ。けれど桜は何も言えず引っ張られていく。
 すると急に腹がずくりと痛んだ。
「あっ!」
 桜が座り込むと産婆が激しくにらんできたが、桜の足元には赤い水があふれてくる。それを見て事態を把握したのか青ざめた。
「義明様、戸を閉めて下され!」
 あまりの形相に圧倒された義明が戸を閉める。桜は急にぼやけていく視界の中で産婆の手に縋る。
 産婆は慌てた様子もなく、桜を引きずるように奥へと連れていく。
 桜はどんどん腹の痛みが増すのを感じて悶絶している。だが、歩けと言わんばかりに産婆が奥座敷へ向かう。
 義明は破水を見て動転しているのか、付いてくるだけだ。それを見た産婆は義明をにらみつける。
「義明様はついてきてはなりません!」
「だが!」
「あなたは何もわかりますまい! 今日中には終わりますでしょう。終わりましたらお呼びします」
 ぴしゃりと言い切って産婆はふすまを閉めた。
 半ば無理やり奥座敷につくと、産婆はてきぱきと準備を始める。中央に寝かされた桜は動けない。うめき声をあげながら桜は産婆がしていることを見ていた。すると出産台などはまるで用意することなく畳に何か黒い砂を撒き始めた。その砂が円を描き、文字を描く。異様だと思っていたが、何をするつもりなのだろう。
 あらかた陣を書き終わると今度は桜の衣服を脱がす。そして何かをかけた、アルコールの匂いがしたので恐らく酒だろう。それもくらむような甘い匂い。いつも嗅いでいたようなあの匂いだ。
 産婆は一般的なことなどにもせず、何かぶつぶつと唱え始めた。それに呼応して腹の中で暴れだす。
「ああっ!」
 痛みと訳が分からず桜は悲鳴を上げる。今までピクリとも動いたことなどなかったのに。お腹の子はまるで出口を探すように動き回る。それが苦しくて腹が裂けるかと思った。
 産婆が目を見開いて文言を唱え終わり、また酒を桜にかけた。
 すると膣から何かが這い出るような感覚がした。あまりにも気持ち悪いので桜は悲鳴を上げる。目を開けるのも、やっとの中で自分の子宮口から出てきているものに視線がいった。
 それはツルのようだった。薔薇のような刺々しさはないが、ツルはしなやかで俊敏そうだった。桜は息をのんだ。まるで自分に何が起こっているのかわからない。あまりにも異常な状況に頭が付いていかず叫んだ。
「どうなってるの!?」
 先ほどまで動く元気などなかったのに桜はツルを取ろうと起き上がろうとする。それを見た産婆は慌てて桜を押さえつけた。
「大丈夫です奥様! 術は効いております! 産むのに集中なさってください!」
 術? 何を言っているのだろう。こんなのまともな状況ではない。
「無理よ! 私の子はどうなってるの!」
 錯乱して暴れる。手の端で黒い砂の陣形を崩してしまった。するとツルは勢いよく飛び出した。産婆が青ざめる。後ろに飛びのこうとしたところにツルはすでに在った。
 桜の感情に呼応してツルは産婆に巻き付いていく。今度は産婆が悲鳴を上げた。産婆の首にツルが巻き付いていく。
 ぎりぎり、みちみちと音を立ててツルは産婆の首を絞めた。産婆がツルによって体を持ち上げられて口から泡を吹き始めた。びくんびくんと痙攣して息が止まる。桜は悲鳴を上げる。ツルは産婆を乱暴に床に降ろし、桜の内部に戻る。
「何なの!? 何なのよ!?」
 子供はどうなっているのだろう。椿はどういう状況なのだろう。尋常じゃない状況で桜が願うのは椿の安否だ。得体のしれない何かが腹の中でうごめいている。だが、頼りであった産婆は泡を吹いて倒れている。死んでいるかもしれないと考えて怖くなった。今度殺されるのは自分自身かもしれない。思って恐怖で震えた。
 だがそれも考えられないくらいの激痛が身体を奔った。
 子宮から何かが膣を通ろうとうごめいている。子宮口が開く暇さえ与えられない程のスピードで降りてくる。桜は絶叫した。
 無理やり裂くように降りてくる何かが、桜の子宮口を突き破る。痛みは頂点を通り越して桜は気絶しそうになった。だが、痛みはすぐに引いた。完全に生まれ出でたのだ。
「椿、椿……!」
 必死に名前を呼ぶが、声は聞こえない。桜は出産からの疲れで眠りに落ちた。椿の産声は聞こえない。
 
 ***
 
「さくら……! 桜!」
 義明の声に桜は意識が一気に覚醒した。目を開くと泣きそうな表情が見えた。
「義明?」
 安堵したかのように義明は何度もうなづく。部屋がまぶしい。よく見ると消毒液のような独特な匂いがする。ここはどこだろう。手を動かすと腕には点滴の針が刺さっていた。
「ああ、俺だよ。大丈夫かい?」
 桜はうなづく。
「ええ、私は大丈夫。ここは?」
「病院だよ。もう心配ない」
 病院? あんなに頑なに行かせてはもらえなかったのに。どうして今ここにいるのだろう。周りは真っ白な壁に阻まれて何もない。個室のようだ。ぼやけた思考の中で先ほどの地獄のような出来事が思いだされた。
 思わず吐きそうになって起き上がって咳き込む。だが、胃液すら出なかった。
 そして、思い至る。
「椿は!? 私たちの子供はどこ!?」
 すると苦虫を噛むように義明が表情を歪める。その表情に桜は不安になり、義明を見た。義明はまるで得体のしれないものを見たかのように口を閉ざした。
「あれは、僕らの子じゃない」
「どういうこと? 意味が分からない!」
 喚く桜に義明は言い聞かせるように言った。
「椿のことは忘れよう。なかったこととして考えるんだ」
「どういうことなの? ちゃんと説明して!」
「わかった。わかったから落ち着いて」
 桜を落ち着かせるように静かな声音で義明は語り始めた。
「僕の家は代々続く華道の本家だ。一生をその道に捧げる人も多い。僕もそうだ。けどね、そうこうしているうちに花を愛おしむばかり異変が起こり始めた。生まれる子が何か得体のしれないものに憑りつかれる様になったんだ。そういう子は大抵殺される。燃やすんだ。呪術をかけながら。跡形も残らないように。植物の妖なんだ。炎に弱い。何もしゃべらず、何も食べず、無表情で人というより化け物なんだ」
 言い切った義明の表情は暗かった。それが真実なのがありありと分かる表情で。
「産婆さんが陽の光を当らないように言ったのも、妖が成長しないようだったらしい。知っていればあんなこと……!」
 ぽたりと義明の目から涙がこぼれた。自分の行いを悔いていたのだろう。なぜ、どうしてそんな言葉を吐いて両手で覆った。耐えきれぬよう涙を落して。
 桜はぽつりと言った。
「じゃあ、私たちの子は化け物に憑りつかれて、もう死んでるの?」
「死んだも同然さ、何もしゃべらず、何も食べないなんて人間じゃないだろう?」
 皮肉気に笑った義明はもう語るのも辛そうだった。けれど、桜が聞きたいのはそういうことじゃない。
「私たちの子供だった子は燃やしたの?」
 義明は首を振る。
「今日の夜、供養する。裏会っていうそういう特殊な能力を持った人たちが穏便に済ませてくれるらしい」
 それを聞いた瞬間、桜は得体のしれない気持ちがわいた。腹もしぼんで大事に思っていた存在が化け物でしかも殺されるなんて実感がわかない。
 ひとつ言葉をこぼした。
「その子に会いたい」

 ***
 
 本来ならば産後の女性が退院するには日数がかかるが、医者に無理を言って即日退院させてもらった。黒塗りの車で迎えにきた義父たちを見て憎しみがわくかと思ったが、まるで興味はなかった。霊柩車に乗るみたいだな、なんて的を得ない気持ちしかわかなかった。家に着くと大勢の人間が庭にいた。
 どれも僧のような修道着を着ていて、異質な集団に見えた。とても気味が悪い。本当に妖なんているのだろうか。彼らは円を描くようにいて何かを唱えている。
 火が焚かれ、中央にあるものを見て桜は目を見開いた。
 それは咲きかけの寒椿のようだった。みずみずしい蕾。咲くのを待つ前に燃やされる化け物。桜は本当にあれを生んだのかという奇妙な気持ちになった。恐怖はない。ただ、事実として受け入れるには難しかった。
「おや、あなたがあの子の母親かな?」
 そう訊ねてきたのはシルクハットに縞模様のマフラーに口ひげを蓄えた初老の男だった。見るからに怪しい男の風貌に義明は桜の前に出た。すると初老の男は笑う。
「私たちは異質だが、それでもあんたたちと変わらない人間なんだがね」
「正直、信用できませんからね」
「その気持ちもわからないでもない。なんせ、私は人であって人でないところがあるからな」
 桜は不思議とその男に奇妙さはあっても嫌悪はしなかった。どこか飄々とした雰囲気の男ははっきりと自分が異質だと明言した。桜の経験したことも異質だ。現に我が子であろうものは人には見えない。桜は男に訊ねる。
「あなたが椿を殺すんですか?」
 すると男は傑作とばかりに大きく笑った。
「ずいぶん可笑しなことを言う人だ」
 もったいぶった間をもって男は言った。
「殺すのはあなたたちだ」
 その言葉に義明が怒りで体を震わせた。
「私は殺してなどいない!」
「では、今から殺すんだ。見ろ、もう火がつけられる」
 中央に置かれた蕾に一人が松明のようなもので近づいて行っている。桜は息をのんだ。男は冷ややかに桜たちを見た。
「異質だが、生きている。あいにくあの子は悲鳴を上げることもできないが、死ぬんだ」
 そういわれた瞬間、桜は走り出していた。義明の制止を振り切って我が子に近づく。円陣を組んでいた者たちを押しのけて桜は蕾を抱き上げた。
「桜!」
 目を丸くした義明をよそに桜は蕾を強く抱きしめた。すると、トクントクンと鼓動が聞こえた。目に涙があふれる。
 ――この子は生きている。
 桜は蕾にぽたりと涙をこぼした。
 すると一瞬、蕾が燐光を放ち、花弁が開いていく。中には他と変わらないぷっくりとした赤子の姿があった。
「椿……」
 呼びかけるが返事はない。無言で目も開いていない赤子がそこにいた。
 甘い。いつも嗅いでいた匂いをしていた。
 シルクハットの男が笑う。
「どうした? 殺すんじゃなかったのか?」
 桜は男にゆっくりと近づいた。男も逃げはしなかった。真近くで桜は男を見た。
 どう考えてもろくな男では無さそうだ。けれど、賭けるしかない。
「あなたは自分のことを、椿のことを異質と呼びましたね?」
「ああ、そうだ」
「なら、そこになら椿の居場所はありますか?」
 義明が驚いたように桜を見る。桜は男から目をそらさない。男もそうだった。
 男はにやりと笑った。
「さすが、こういう時女は強い!」
 呵々と笑い、男は桜に抱かれている椿を取り上げた。
「よかろう! 私のもとにはそういう子が集まってくる。今更一人増えても構わないからな」
 そして、男はにやりと笑って椿を抱えながら礼をした。
「私は無道という。この子は私が預かろう」
 桜は小さく礼をして、涙ぐんだ。
 ――さようなら、私の子。
 椿はもう同じ世では生きられない。けれど、生きてさえいれば何も問題ない。生きてさえいれば。
 無道と名乗った男は信用あるかなんてわからない。けれど、桜は我が子を託した。
 葉山椿はこうして俗世から離された。

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