(私たちの形)


1年の頃からずっとクラスが一緒でたまたま委員会が同じになってそれで仲良くなったやつがいる。
その人は今では男子バレー部の部長をしていて、こんなやつが部長なんてほかの部員がかわいそうと思ったのは本人にバレるとうるさいので黙っておこう。
練習をするためのドリンクを作っていると、後ろからちょうどその部長さんがやってきた。

『黒尾?どうかした?』
「いや。手が空いたから手伝おうと思って」
『ふ〜ん?でももう終わるからいいよ』
「あ、そう。ならカゴ持って行くわ」
『よろしく』

1年の頃から何気に3年までクラスも委員会も一緒で尚且つ部活も一緒。
別に特別仲がいい訳ではないのだが、最近奇妙なぐらい黒尾が優しかったり気遣ってくれたりしてくれている。
そういうことをされるような何かが起きたわけでもないし、体調が悪いわけでもない。
ここ最近それがずっと続いている。
どこかで頭でも打ったのだろうか…?
気になって仕方がないので練習が終わったあと夜久に聞いてみた。

「黒尾が変?」
『そう』
「変なぁ…。それいつものことだろ?」
『あ、そうか。…じゃなくて!』
「変って言ってもなぁ…。女々しかったのが最近頑張ってるって話だろ。なぁ海」
「俺に振られても…。まぁ確かに女々しさは少しずつ抜けてきたような気もするな」
『女々しかった…?』
「いや…。てかお前こそどうなんだよ」
『何が?』
「好きなやつとかさ」
『なっ…。なによ、急に…』
「別に?お前意外と男前な所あるだろ?だからちょっと気になっただけだ」
『男前って…。それ褒めてないけど』
「で、どうなんだよ」
『どうって言われても…。今は付き合うとか告白とか考えてない。そんなことよりも部活とか勉強とかの方が大事だし』
「へぇ〜…じゃあ好きな人はいるってことだな」
『え、あっ!』

ニシシという効果音がつきそうなほど楽しそうに笑っている夜久が目の前にいた。
やられた…。
本当にこういうことに関しては夜久はよく頭が回る人だとつくづく思う。

『(夜久って女子と混ざって女子トークできるんじゃない…?)』

そんなことを思われているなんて思ってないだろう夜久は顎に手を当ててなにやら考え込んでいる。
何か嫌な予感がするのでその場から逃げようと足を動かしたが、夜久の発した言葉に驚いてその足を止めた。

「そうか。お前の好きな人って黒尾か」
『はっ!?』
「お前が俺らバレー部のやつ以外に一緒にいる男子とか見たことねぇし。その中でも一番仲がいいのは黒尾だろ?それに3年間クラスも委員会も一緒だしな?」
『それとこれとは関係ないでしょっ!』
「でもよ、そこまで動揺してるってことは図星だろ?お前嘘を吐くの下手くそだもんな」
『…はぁぁ〜…。…黒尾には絶対に言わないでよ』
「言わねぇよ。まっ応援しといてやるよ」

この夜久と海とのやりとりが黒尾との仲を左右させるだなんてこのときは思ってなかった。
夜久と話をしてから何やら落ち着きのない黒尾がいた。
こちらの様子を伺いつつ、自分の言いたいことや用件を伝えるとすぐにどこかへ行ってしまう。
まるで、尻尾を踏まれた猫みたいにピュッとどこかへ行ってしまう。
まぁ時間の問題だろうと思い何もせずに放置を決め込んだ。

それから数日。
梟谷グループで合宿を行うための準備を練習が終わった後も部室に1人残って行っていた。
監督と何やら話しこんでいた黒尾が私以外はもう残っていない部室に戻ってきたとき、一瞬で彼の周りの空気が変わった。
疲れで脱力していただろう体が私を見た途端にピシッと固まってしまったのだ。
それを見てまたかとため息を吐いて一時停止していた作業を再開した。

「…それまだかかるのか?」
『もう少し。今日までにやっておきたいから。別に気にしないで先に帰っていいから』
「2人でやったほうが早いだろ。手伝う」
『ありがとう』

しばらくは無言のまま作業をし、必要最低限の会話はしていなかった。
それに耐えられなくなったのか黒尾は少しずつ言葉を繋げていった。

「お前さ、好きな人…いるんだって?」
『…どこからその話が出てきたのよ』
「夜久と話してたの少しだけ聞こえた。その後すぐ監督に呼ばれたけどな」
『……最後までは聞いてないってこと?』
「俺が聞こえたのはお前が付き合うとかそういうの考えてないってのと夜久の好きな人はいるってことだなってことだけだ」
『随分ピンポイントに…』
「………誰なんだよ」

作業をしていた手を思わず止めてしまった。
今まで聞いたことのない黒尾の声色に心臓がドキンッと跳ねた。
後ろに振り返ると何やら言いたげな表情で眉間に皺が寄っており、でも眉が下がっている。

『誰って…。私にだって知られたくないことの1つや2つあるんだから』
「…そう、だよな。悪い…」
『そういう黒尾はどうなの』
「俺?いるよ。でも俺こう見えて女々しいから告白とか無理」
『女々しいねぇ…。そういえば夜久もそんなこと言ってたような…。あと海も』
「お前らね…どんな話してんの…」
『でもさ女だから言うけど、こうハッキリと目の前で言われたりするとやっぱり嬉しいかなって思うんだよね』
「………」
『ボソッと言われるより断言するように言われたらキュンってくるかなぁ…』
「…男前に見えてやっぱり中身は女なんデスネ」
『なにそれ!ちょっとぐらい夢見てもいいでしょー?』
「もし今その好きな人に告白されたらどうすんの?」
『今?んー…。部活とか勉強とか色々忙しいのを理解してくれるなら付き合うかな。まぁでも同じ立場にいるから理解はしてくれると思うけど天地がひっくり返ってもそれはないかな』
「何で?」
『だって好かれてるって自信ないし。だから落ち着いた頃に自分から言おうって決めてるの』

3年間クラスも委員会も一緒で、なんてことがあっても黒尾に好かれてるなんて自意識過剰になんてなれない。
よく一緒にいるし話したりもするけど、所詮は友達止まりってやつかなと思っている。
こんな部活仲間に男前だなんて言われる女よりも、どう見てもおしとやか女のこの方がいいに決まってる。

合宿の準備も終わって立ち上がった瞬間、後ろに手を引かれた。
もちろん私の手を引けるのは1人しかいない。
大きな手が私の手首を掴んでいる。
真っ直ぐに私を見るその瞳は真剣そのもので、その目と合うと視線を反らせなくなってしまった。

『黒尾…?』
「俺さ…。お前のことが好きなんだ」

しばらく何を言われたのか分からなかった。
好き?
誰が誰を?
黒尾が?私を?

言われた意味を理解したとき急に顔に熱がこもっていくのが自分でも分かった。
絶対に真っ赤な顔をしてるに違いない。
そんな自分の顔を黒尾に見られたくないと思いつつも、彼の瞳から反らすことなんてできなかった。

『…黒尾』
「おう」
『……私も好きだよ。黒尾のこと』
「…それは……」
『ちゃんと恋愛的な意味で、ね』
「みょうじ。俺と付き合ってください」
『不束者ですが、お願いします』
「こちらこそ」

何だか変な告白になってしまったかなと思ったが、結果オーライということでまぁいいか。
その後、黒尾が色々と相談していたらしい夜久と海に付き合うことになったことを報告した。
この前話していた女々しいこととかを全部隠さずに教えてくれた夜久に黒尾が襲撃したり、女々しい彼氏と男前な彼女という凸凹カップルになった私たちを卒業するまで夜久たちのからかいの的になるのはもう少し後の話になる。

end



遊様。はじめまして。
この度はリクエストいただきありがとうございました。
小説の完成のほう遅くなってすみません。
黒尾視点も書こうと思ったのですが自分の文才の無さにより主人公視点のみになってしまいました…。
機会があれば黒尾視点のほうも書こうと思っております…。
今後もマイペースにではありますが少しずつ更新していきますので、これからも当サイトをよろしくお願いします。



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