(辿り着くまで…)


約数時間のあいだ、新幹線に揺られて辿り着いたところは東京。
音駒高校の監督さまの計らいで私たち烏野高校男子バレー部は梟谷グループの合同練習に参加させていただくことになった。
今回の合宿の場となった学校に着き、まだ練習が始まる時間ではなかったので各自自分の荷物を寝泊りする空き教室に置いたあと体育館へ向かってウォーミングアップを始めていた。
今まで一緒にマネージャーとして頑張ってきた清子と、新しく入ってきた可愛くて仕方ない初めての後輩にあたる谷地さんと一緒に色々と準備をしているとスッと後ろから現れた影に身を捻って見るとそこには幼馴染の姿があった。

「どーも」
『あ、鉄朗。この前以来だね』
「あぁ。この前はそちらの眼鏡くんのおかげでハラハラ、ドキドキでしたけどね」
『月島くん?何かあったの?』
「いや、なんでもないデス…。今回もよろしくなー」
『こちらこそ』

宮城と東京という距離にいる幼馴染で音駒高校主将の黒尾鉄朗。
私と彼の母親が高校の頃の親友だったらしく、元々東京の人だった私の母は父が宮城の人だったため嫁いだのだ。
まぁ母親の友達の子ども同士が幼馴染になるというのは別に珍しいことでもないのだろうと思っていたりもする。
しばらく2人で話していると前の方から月島くんが歩いてきた。
最近はようやっと彼の表情から機嫌が読めるようになったかなと思っている。
こちらをしっかりと視界におさめ、ゆっくりと歩いてくる月島くんは何故か少し不機嫌そうだった。

「みょうじ先輩。そろそろウォーミングアップ終わるぞって主将が」
『ありがとう』
「わざわざ、ご苦労なこったですねぇ。月島クン?」
「…別に主将に頼まれたから来ただけデス」
「へぇー?」
「……なんですか?」
「いや、なんでもないですよ。ただそちらのミドルブロッカーの肩はあまり素直ではないみたいで?」
「………」
『ちょっと2人とも…?』

自分を挟んで高身長のお2人はなにやら睨み合っているようにも見える。
そんな感じの2人を見るのはなんだか新鮮だなぁと少しズレた観点で観察していたが、しばらくしてスガと音駒の夜久くんがそれぞれの部員の腕を引っ張ってチームへと戻っていったのだった。

朝から晩まで休む暇もなく動き続けて、ようやく仕事から開放されるのは選手たちの食事が終わってからだ。
他校のマネージャーたちと会話を交わしながら食事をし、お風呂に入って髪をしっかりと乾かした後、少し夜風に当たりたくなって外に出てみた。
東京と宮城と言ってもさほど変わらない夜の静けさは、ここが東京といっても郊外にあたるからだろうか?
しばらく歩いて見つけた階段に腰を下ろして空を見上げた。
宮城より気持ち少ないかなと思わせる星の数。
何かをするわけでもなくずっと空を見上げていると、ザッザッとゆっくり地面を蹴る音が聞こえてきた。
誰かがこちらに向かって歩いてきている。
そう思って後ろを見ると何だか朝と少しデジャブだなぁと思いつつ鉄朗の姿を見つけた。

「何やってんの、こんなとこで」
『ちょっと夜風に当たりたくなって』
「風邪引くぞー」
『鉄朗みたく髪乾かさずじゃないから大丈夫ですー』
「そういう問題じゃねぇだろ」

いつもの重力に逆らった感じの髪がその威力をなくしていて、全体的にへなっとなっている感じがする。
うなじらへんの髪からはまだポタポタと水が垂れていて、それを肩にかけているタオルが吸う。
私の隣にドカッと座った鉄朗の肩からそのタオルを奪ってやや雑に髪を拭いていく。

「ちょっ…!」
『ちゃんと拭かない鉄朗が悪い』

初めは抵抗していた鉄朗だが段々と諦めがついたのか私にされるがままになっている。
風邪を引かないようにちゃんとタオルドライをして、もう水が垂れてこないかを確認してから鉄朗にタオルを返した。

「さんきゅ」
『どういたしまして』
「これ羽織ってろ」
『ん。ありがと』

お礼だとも言うように鉄朗は手に持っていた音駒の真っ赤なジャージの上着を渡してきた。
素直に彼の言葉に甘えて、自分の体をスッポリと覆ってしまうそのジャージを肩にかけた。

「…大学は宮城のままか?」
『一応そのつもり』
「そうか…」
『鉄朗は?』
「俺も東京のままだ」
『そっか』
「こっちに来ようとは思わなかったのか?」
『迷ったんだけどね。こっちには鉄朗もいるし。でも、どうしようかなって…。正直迷ってる』
「まっ自分の納得のいくようにしたらいいんじゃないの?」
『そうだね』

静かな空間に私と鉄朗の声が響いたと思ったら、また静かになる。
それを何度も繰り返した。
だけど、何となくその場から離れるのが嫌で鉄朗といる今の時間が自分にとってはとても心休まる時間になっていた。

「俺が言うことじゃないけど…」
『ん?』
「ツッキーはたぶん、お前のことが好きなんだろうなって思うよ」
『えぇ…それは流石に違うんじゃない?』
「どうだろうな。でも勘だけどそう思うわ」
『どうして?』
「……俺とあいつは"同種"だからな」
『同種?』
「似てるってこった」
『……どこが?』

思わず口から出てしまった言葉は別に私のせいではないと思う。
どこをどう見て彼と自分が似てるだなんて言えるのだろうか…。
少なくとも月島くんは手のかかる大きな子どもではない。

『…私は研磨くんが少し羨ましい』
「研磨?」

毎日のように一緒にいて部活も一緒で、自分がいくら願っても叶うことのない願望。
好きな人と少しの時間でも一緒にいたいという気持ちは誰だって持ってるはずの感情だと思う。
それは私だって例外ではない。

「…俺さ諦めてねぇからな」
『え?』
「昔に振られただろ。東京と宮城は遠いからって理由で」
『………』
「でも、なまえ自身の気持ちはあのとき聞けてないからな。だから諦めない。…俺さ大学決まったら一人暮らしすることになってんの。だからいつでも来いよ。…待ってるから」
『…うん』

階段に隣り合わせで座ったまま、顔を向き合わせることもなく交わした会話。
静まりかえった私たちの微妙に空いた間を風が吹き通っていく。

『…鉄朗』
「ん?」
『あのね…。好きだよ…鉄朗のこと。…だから、待っててくれる…?』
「いつまでも待っててやるから。だから絶対俺のところに来いよ」
『うん』

微妙に空いていた私たちの間に手を重ねて距離を詰める。
いつか必ず自分を待っていてくれている彼の元へ辿り着くように願いを込めて、温かく大きな手を握り返した。

それから数ヵ月後、受験の合格証の写真を撮ってメッセージと一緒にそれを送ると返事の代わりに着信を知らせる大きな音が鳴り響くのはもう少し先の話。

―東京の大学に受かったよ。これ証拠写真ね―


end



けい様。リクエストありがとうございました。
黒尾と月島との三つ巴というリクエストでしたが、うまく月島と絡ませることができなくてほぼ黒尾だけになってしまいました…。ご希望の設定の表現のできなさにまだまだだなと感じました…。少しずつ精進していきたいと思いますので、これからも当サイトをよろしくお願いします。今回は本当にありがとうございました。



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