(温かい手)


朝起きて下腹部の痛みにため息を吐いた。
月に1度をやってくるその生理現象も、もう何年も経験しているので慣れてはいるが、最近になって現れた酷い生理痛に悩まされている。
痛くてたまらない下腹部と腰。
ガンガン響く頭痛。
とりあえず胃の中に何か食べ物を入れて、そのあとに痛み止めの薬を飲み込んだ。
これがなくては仕事もままならない状態になってしまう。
仕事に行く支度を終わらせて一息ついたところで携帯を見ると、朝一番にメッセージを送り続けてくれている"彼"に対して返事を送り家を出た。

鞄からカードケースを取り出しそれを機械に当て、ロックが解除された扉を開けるともう数名が自分の席に着いていた。
自分の席に座って昨日仕事を終えて帰ってから溜まったであろう申請書などを見てため息を吐いた。
少しずつ増えてきた生徒たちが出席をとるために学生証を機械に通していく。

彼に初めて会ったのはたまたま彼の学生証の再交付を担当したことだった。
それももう1年前のことになるんだなぁと校舎へ入って行く生徒たちを見ていると、もう随分と見慣れた姿を見つけた。
友人たちと一緒にやってきた彼はカードを通した後こちらに目をやった。
タイミングよく合った目線に嬉しそうに微笑んだ彼を見てこちらの頬が熱くなるのを感じた。
先ほどまで一緒にいた友人たちを別れて自分の方へと歩いてきた。

「おはよう」
『おはよう。いつも通りの時間ね』
「そうかな?…体調でも悪いの?」
『どうして?』
「いや、顔色がよくないから…」
『んー…少し貧血気味ね…』
「えっ…」
『あ、でも大丈夫よ。"あれ"がきただけだから』
「!…あ、そ、そういうこと…」

大学生になっても何だか初な彼は私の言葉を聞いて顔を赤らめた。
そんな反応でさえ可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだろうか。

『明日が休みでよかったわ』
「バイトが終わったらなまえさんの家に行くよ」
『わかった。今日も1日頑張って』
「なまえさんも」
『ありがとう』

昼休憩前ぐらいになって薬の効き目がなくなってきたのか、急に下腹部と腰辺りに痛みを感じた。
それが顔に出ていたのか同僚に指摘され、いつもよりも少し早めに休憩に入って食堂で軽く食事をとり朝と同様に薬をお茶で流し込んだ。
そんなことをしていたからか体調が良くないことが顔に出ていたのかは分からないが、珍しく定時に上がらせてもらえた私は寄り道をせずに家に帰り、寝室のベッドに潜り込んだ。

しばらくしてガタンッ…ゴトンッ…という音に目が覚めて、そこで自分がいつの間にか寝ていたことに気づいた。
寝室から出て音のする方へ移動すると、大きな体がワタワタとしながらキッチンで何やらしていた。

『…旭……?』
「あ…ご、ご、ごめん。…起こしちゃった?」
『大丈夫…。何してるの?』
「チャイム鳴らしても出てこなかったから鍵開けて入ったらベッドで寝てて…。あったかいもの作ろうと思ってたんだけど…」

おずおずといったように話し始めた彼にどうしても表情が緩む。
ゆっくりと近寄って腰辺りに後ろから抱きついた。

『ココアが飲みたい…』
「!…用意する!」

旭に作ってもらったココアの入ったマグカップを受け取って、彼の膝の間に座った。
彼はというと私のお腹へと後ろから腕を回して抱きしめてくれている。
時々、温かくて大きな手がお腹を優しくさすってくれる。

「まだ痛む?」
『薬の効き目がなくなってきたかな、ちょっとお腹が痛い』
「しばらくこのままでいよう」
『…そうだね。旭の手が温かいから落ち着く』
「やっぱり辛いものなんだ」
『んー…?もう慣れたよ。それに旭がこうやって気にかけてくれるの実は嬉しいんだ』
「こんなことでいいならいつでもやるよ」
『ありがとう』

ズクンと痛むお腹。
後ろにいる旭に体を預けるようにもたれると、旭は文句を言うこともなく私を抱きなおした。
お腹をさすってくれていた手は未だにお腹の上で動いていて、その手や背中から感じるポカポカと温かい体温が痛みを和らげてくれる。

「早く痛みがなくなるといいのにな」
『そうだね』

大好きな彼にここまで尽くしてくれるなら、ひどい生理痛もたまには悪くないかなと思ってしまう。
お腹に当ててくれている手に自分の手を重ねた。

end



琥瑚様。リクエストありがとうございました。
小説の完成に時間がかかりすみません…。
旭さんの話し口調に苦戦しました。
どこかおかしいところがあるかもしれません…。
ずばりここが違うと言って頂ければ幸いです。
これからも当サイトをよろしくお願いします。


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