(大切なことは言葉に)


今は昼休み。
いつも通りなら私はバスケ部のスタメンたちと、マネージャー仲間であるさつきたちと一緒に、屋上でご飯を食べているはず…。
しかし、今日は屋上には行かずにクラスメートの友達と一緒に食べていた。
友達のふとした疑問から、話が進んでいく。

「赤司くんとケンカしたぁ!?」
『うん…』

バスケ部のマネージャーになってしばらくして私は赤司くんのことを好きになった。
それまでは、ただの部活仲間だと思っていたが青峰くんたちと仲良くなるにつれて、赤司くんの隠された優しさに気付いてしまった。
その時にはもう赤司くんのことが好きになっていた。
そして、数ヶ月前に晴れて私たちは付き合うことになったのだ。

「どうして、また?」
『それは…』
「もしかして、赤司くんの前でもそうやってダンマリしたの?」
『うん…』
「私でよければ聞くから、詳しく教えてよ」
『でも…』
「大丈夫!誰にも言わないから!」
『うん。…あのね……』

ことの始まりは、数時間前の話。
私のクラスは4時間目は家庭科の調理実習だった。
内容は至って簡単なもので、カップケーキを作るというものだった。
今相談に乗ってもらっている友達と私はペアになって作った。

『うまくできるかなー?』
「誰かにあげるの?」
『えっと…』
「あ。赤司くんか」
『も、もう…!』
「あはは。可愛いなぁ、なまえは」
『そんなことないって』
「でも、よく赤司くんと付き合おうと思ったよね」
『どうして?』
「ほら、赤司くんってちょっと近寄りがたいイメージがあるじゃない?」
『そう?』
「ファンもさこっそりファンが多いし」
『まぁそれは確かにそうだけど…』
「喜んでくれるといいね」
『うん』

授業も終わり、さっそく作ったケーキを赤司くんにあげようと彼のクラスに立ち寄った。
赤い髪の彼を見つけるのに時間はかからない。
声をかけようと思った時に見たのは赤司くんがクラスの女子に呼び止められてケーキを受け取っていたところ。
調理実習があったのは私のクラスだけではなかったようだ…。
そして、しばらく楽しそうにクラスの子を話していた。
そんな赤司くんの姿を見て、胸の奥がモヤモヤとした。
話にキリが付いたのか、教室を出ようとこちらにやってきた。

「来ていたんだね」
『…赤司くん』
「どうしたんだ?屋上に行くだろう?」
『………』
「なまえ?」

私は話しかける前に、咄嗟に手に持っていたものを背に隠した。
彼が来ても、胸の奥はモヤモヤしたままだ。

『…さっき』
「ん?」
『…楽しそうだった』
「あぁ。ケーキをもらったんだ」
『うん。…見てた』
「それがどうかしたのか?」
『…私といるより彼女たちといたほうが楽しいんじゃない?』
「……は?」

しまった。
そう思ったときには、赤司くんは眉間に皺を寄せていた。
黒くモヤモヤとしたどす黒いものが、頭の中を占めていく。

「何かあったのか…?」
『…なんでもない』
「なんでもないという顔ではないだろう」
『…もういい』
「よくない。ちゃんと言え」
『もういいってば…!』
「よくないと言っているだろう!」

その場を逃げるように足を進めよとしたとき、赤司くんは逃がさないとでも言うように私の腕をつかんだ。

『!』

その反動でずっと手に握っていたケーキが廊下に落ちた。
赤司くんはそれを見て、目を見開いていた。
そして、落ちたケーキを拾おうとする。
赤司くんよりも素早くそれを拾って後ろに隠した。

「それは…」
『赤司くんには関係ないっ…!』
「おい、なまえ!」

赤司くんの制止の声も聞かずに私は教室へと戻ってきた。
そして、冒頭に至る。

『あんなこと言うつもりなかったのに…』
「嫉妬、だねー」
『嫉妬…?』
「胸がモヤモヤっとした?」
『した…』
「なんで自分以外の女の子と楽しそうに話してるのって思った?」
『…思った』
「嫉妬だねー」
『………』
「時間ならまだ間に合うからさ。話しておいでよ」
『でも…』
「赤司くんはなまえのケーキ見たんでしょ?」
『うん』
「じゃあ少なからず、赤司くんも自分のしたことに悪いと思ってるかもしれないし」
『………』
「それにね、いくら両想いで付き合ったからって何も話さずに相手の気持ちなんて理解できないし」
『…そうだよね。いくら赤司くんでもそんなこと…』
「素直に話しておいで?そしたら赤司くんも分かってくれるって」
『うん…。行ってくる』
「行ってらっしゃい。ちょうどお迎えも来たみたいだし」
『え?』

友達が教室の扉の方に目を向けた。
それにつられてそこを見ると、扉のところには話の中心人物だった赤司くんがいた。
一応、私はケーキの入ったカバンごと席を立った。

『ありがとう』
「お礼はこの後に朗報聞かせてね」
『うん』

赤司くんが待つところまで行く。
彼はそれを確認したあと、背中を向けて足を進めた。
それに黙って私はついていく。
そして、ついた場所は第1体育館の裏だった。
そっと腰を下ろした赤司くんの隣に私も座った。

「………」
『………』

私たちの間には沈黙が流れていく。
こんな思い空気なんて初めてだ…。

「…すまなかった」
『…え?』

予想していなかった赤司くんの言葉に驚いた。
赤司くんを見ると、申し訳なさそうに眉尻を下げていた。

「桃井に散々言われたよ。彼女以外からそういう物を受け取るのはあまり良くないと」
『…うん。私もごめんなさい…。関係ないなんて言って…』
「いや。元と言えば僕のせいだ」
『…私ね嫉妬してた…。赤司くんがあまりにも楽しそうに話してたから…』
「…なぜだと思う?」
『え?』
「…本当はあれはなまえの話をしていたんだ」
『私の…?』
「あぁ。誰しも自分の彼女が誰かに褒められたら嬉しいだろう?」

確かにそうだ。
私も誰かに赤司くんのことを褒められたら、私もうれしい。

「なまえは本当に料理がうまいから比べものにならないけどっと言ってもらったんだ」
『…そうだったんだ…』
「単純だが、やはり嬉しかったんだ」
『うん…』
「だが、なまえを不安にさせたのには変わりない。本当にすまなかった」
『そんなに謝らないで。素直に言えなかった私も悪かったから…』
「なまえ」
『ん?』
「もらえないか。なまえの作ったケーキを」
『え?』
「実は楽しみにしていたんだ。柄にもなく…」

そう言って少し顔をそむけた赤司くん。
だけど、真っ赤になった耳は丸見えだった。
カバンの中に入ったままのケーキを手に取って、赤司くんに差し出した。

『赤司くん。私のでよければ受け取ってください』
「あぁ。ありがとう」

優しく微笑んだ赤司くん。
そんな赤司くんに段々と顔に熱が籠ってくる。
なんだか恥ずかしくなって顔を背けた。

「きっとさっきもらったケーキは今頃、紫原の腹の中だろう」
『え?』

そう言った赤司くんは小さくまた笑った。
そんな彼を見て、私の顔も綻んだ。

「なまえ」

私を呼んでから段々と縮まる赤司くんと私の距離。
近づいてくる顔を見つつ、ゆっくりと目を閉じた。
そっと触れた唇は、赤司くんの優しさに溢れていた。


end

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