(素直な気持ちを彼に)


昔からずっと一緒だった。
親同士の仲がよかったり家が近いという所から、高校に上がった今でも学校は違えど一緒にいることが多い。
そんなこと言っている今日も私の家で3家族そろって晩ごはんを食べていた。食後は私の部屋で3人で寛いでいる。
すると、さつきからの突然の質問が降りかかってきた。

「大ちゃんとなまえちゃんはどこまでいってるの?」
『え?』
「何で言わなきゃいけねーんだよ」
「いいじゃん!気になるんだもん」
「教えるわけねーだろ」
「ね、なまえ。教えて!」
『えっと…』
「言うんじゃねーぞ、なまえ」
「もう!大ちゃんのケチ!」
「うっせ」

相変わらずの2人に、それに挟まれる私も相変わらずだ。
大輝くんと幼なじみ以上の関係になったのは高校に行く前。
さつきが言うには高校が離れるのが大輝くんは不安だったらしい。
私もずいぶん前から大輝くんのことが好きだったし、返事はその場でオッケーだったのを覚えている。

「大ちゃんって何気に独占欲強いよね」
『そうなの?』
「だって、そのネックレスもだし首元の…」
『首元…?』
「さつき黙ってろ!」
「あれー?もしかして照れてるの?」
「んなんじゃねーよ!」
「だったらいいじゃん」
「よくねー」
『………』

2人は本当に仲がいい。
今までさつきはバスケ部のマネージャーとして大輝くんの隣にいた。
私はというと彼氏はバスケの有名選手にも関わらず、全くと言っていいほどバスケの知識がない。
体育の授業レベルだ。
今まで試合はずっと見てきた。
それでも思うことはきっと彼らからすれば素人同然のようなものだろう。
さつきはそういう面からも言えば、私よりはるかに大輝くんのことを支えてきている。
そんな2人に特別な"何か"があってもおかしくない。
そう思うと、さつきまでにも私は嫉妬してしまう。
今だって目の前で仲良く言い合い。
大輝くんと正面から強く言えるのが羨ましい。
だけど、幼なじみとして、親友としてさつきのことは大好きだ。
彼女を恨むことなんて私にはできない。
いっそ2人が付き合えば、こんな気持ちにはならなかったかもしれない…。
それはそれで痛む心もあるが…。

「…い、…!…なまえ!」
『!?』
「どうしたんだよ、ボーっとして」
「なまえちゃん、大丈夫…?」
『あ、うん…。ちょっと考え事してた』
「考え事?」
『何でもないから。気にしないで』
「…何でもねー顔じゃねぇから聞いてんだろ」
『………』
「ちょっと、大ちゃん…!」
「言いたいことあんなら言えよ」
『…何でもない』
「チッ。そーかよ。好きにしろ」
「大ちゃん…!」

青峰は舌打ちをして、その場から姿を消そうとした。
そんな彼の背中に桃井が静止の声をかけるが止まる気配はない。

『さつき』
「なまえちゃん…」
『私はいいから大輝くんと一緒に帰ったら?』
「でも…!」
『おばさんたちも帰っちゃったし、一人は危ないよ。それに一人になりたいの…』
「…わかった。家に帰ったら連絡するからね!」
『うん…』

そう言って桃井は先に行った青峰を走って追いかけた。
2人がいなくなった部屋でなまえは一つため息を吐いた。
言いたいこと言えなんて、できるわけがない。
それに自分のこの厭らしい感情を2人に告げることなんてできない。
2人には知られたくない。
こんな醜い感情を…。
でも、これが原因で大輝くんを怒らせてしまうなんて思ってもいなかった。
結局その日はずっと部屋に籠りっきりだった。
帰ったというさつきからのメールを見た後、携帯の電源を切った。
何となく今は誰かと冷静に話せる状態じゃないと思ったから。
運よく明日は土曜日。
ベッドにもぐり眠れるはずがないのに、とりあえず目を瞑って寝る努力をした。
でも、一睡もできず気付けば朝になっていた。
洗面所に顔を洗いに行く。
鏡に映った顔は笑えるほど酷かった。
朝ごはんも喉を通らず、飲み物だけ飲んで部屋に戻った。
しばらくベッドの中で昨日のことを考えていたが、知らずのうちに意識は薄れて行った。
昨夜寝れなかったのが今来たかと片隅で思いつつ、その睡魔に逆らうことなく体をベッドに預けた。
しばらくして、なんだか体が重たい。
そう思って目をゆっくりと開けた。
カーテンから覗く光はまだお昼ぐらいだと表している。
寝返りを打とうと思ったがうまくできない。
不思議に思い隣に目をやると、そこには見慣れた青色の髪。
彼の瞳はパッチリと開けられていた。
抱き枕にした状態で雑誌を読んでいた彼は手に持っているものから私へと目を向けた。

「起きたか」
『…なんで』
「おばさんが入れてくれた」
『…なんでいるの』
「昨日寝てねーって聞いたけど本当かよ」
『…どうして、いるの…?』
「携帯かけてもでねーし。来てみりゃ寝てるしよ」
『……なんで、いるの…!?』
「………」

強くそう言うと彼はようやく黙った。
そして、ため息を吐いて雑誌を無造作に置く。

『…帰ってよ』
「………」
『好きにしろって言ったのは大輝くんでしょ』
「…さつきが心配してたぞ」
『うるさい…!』
「………」

こんなこと言うつもりなかったのに。
もうダメだ。
さつきも大輝くんも悪くないのに、勝手に1人で悩んで大輝くんに当たって、さつきにまで心配かけて…。

『…もう放っておいてよ……』
「………」
『醜い私を見て笑ったらいい』
「…なまえ」
『どうせ私はこんなだよ』
「なまえ、聞け」
『1人で勝手に考え込んで人に当たって』
「聞けって」
『誰も悪くないのにイヤな思いさせて』
「いい加減にしろ、なまえ」
『どうせ、私なんて…!』
「聞けっつってんだろ!」
『私なんて幼なじみにまで嫉妬するような厭らしいやつだよ!!』
「………」

初めてこんなに感情を表に出したかもしれない。
涙が止めどなく溢れて枕を濡らしている。
一度動いた口は止まることを知らない。

『軽蔑したらいいよ…。幼なじみにまで嫉妬する心の狭いやつだって』
「………」
『私といるときなんかよりも、よっぽど楽しそうだし』
「………」
『幻滅したでしょ。だから、もう放っておいて…』

もう終わりだ…。
誰だって理不尽な怒りを当てられたら嫌になるだろう。
今まで続いた方だな…。
そう思った。
さすがの大輝くんも愛想尽くしただろう。
怖くなって私は彼に背を向けて目を瞑った。
お互いの呼吸しか聞こえない部屋。

「…もうねーのか。言いたいことは」

静かに大輝くんの低い声が部屋に響く。

「せっかくだ。言いたいこと全部言えよ」

そう言われたが、これ以上言いたいことなんてない。
余計に嫌われて、会った時に気まずくなるだけ…。

「もういいのか?」
『………』
「無言っつーことは、もういいってことで受け取るからな」
『………』
「………」

また部屋に沈黙が流れる。
しばらくして、後ろから強い力で抱きしめられた。

『…え』
「ったく、本当に昔っから感情的になんねーと本音いわねーんだからよ」
『…どうして……』
「お前がどれだけきつく言おうがオレはお前のこと嫌いになったりしねーよ」
『…大輝くん……』
「だから遠慮すんなよ」
『…でも』
「むしろちゃんと言わねーほうが腹立つ」
『………』
「わかったか?」
『…うん』
「なら少し寝ろ。マジでひでー顔だぞ」
『うん…。大輝くん』
「あ?」
『ありがとう…』
「礼言われるようなことしてねーよ、ばーか」
『うん…。大輝くん』
「んだよ、さっさと寝ろ」
『…好き』
「…わかったから寝るぞ」
『うん…』

力強く抱きしめてくれている彼の手を握った。
それを優しく握り返してくれる。
この暖かさをいつまでも大切にしよう。
そう思いながら大好きな彼に身体を預けた。


end


(スー…スー…zzz)
((ヤベェ…。理性が、ヤベェ…))

← |

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -