(彼らの隣で)


少し賑やかな車内。
窓側の席に座ってずっとゲームをしている研磨は私の目の前に座っている。
私はというと窓側に座って右隣に座っている人の肩に頭を預けていつも愛用している音楽プレイヤーとイヤホンを装備して、てっちゃんのジャージの上着を頭まで被って目を閉じている。
普通なら騒がしい声が聞こえているはずだが、音楽のおかげでそれも聞こえない。
微かに感じるてっちゃんの体温と新幹線の揺れが段々と睡魔に変わっていく。
不意に頭に被っているジャージの中へと侵入してきた手が、耳についているイヤホンを取った。
少し驚いてジャージから頭を出すとこっちを見ているてっちゃんと目が合った。
てっちゃんはしばらく固まっていた私の頭を手で自分のほうに引き寄せて自分の肩に置かせた。

「眠いなら寝ろよ」
『う、ん…』

耳に直接響くようにてっちゃんの声が聞こえた。
その低音でさえ私には子守唄のようにしかならなくて、段々と意識が遠退いていった。
それから数時間後にてっちゃんに起こされたときはもう宮城に入っていた。
こちらでの練習は主に実戦形式の練習試合を元に組んでいる。
最終日は音駒高校とは昔から因縁のある烏野高校。
てっちゃんも烏野高校との練習試合はとても楽しみしているみたいだ。
東京を発ったその日に私たち音駒高校は宮城の槻木澤高校と練習試合をし2セットとも死守をして勝利を収めた。

烏野総合運動公園の合宿所を借りて、ご飯もお風呂も入り終わった頃。
具合が悪くなった選手のための予備の部屋を1人で使わせてもらっているが、普段寝るときはほぼの確立でてっちゃんと研磨がいるので今の状況が何だか心細くて、2人がいる大部屋にこっそり入った。
きれいに敷かれている布団は2列に並んでおり、足と足が向き合うように敷かれている。
入り口から見て左側の一番奥の布団に同じ学年の山本くん。
その1枚手前には何故か正座をしている犬岡くんと芝山くん。
右側の奥から2枚目の所にてっちゃんが座っていて雑誌を読んでいる。
てっちゃんの座っている布団の1枚手前には研磨が座って携帯をいじっていた。

「なまえ?どうしたの」
『研磨…』
「こっち来たら?」
『…うん』

入り口で立っていた私に気づいた研磨が声をかけてくれた。
研磨たちがいるほうに移動すると雑誌を読んでいたてっちゃんも私の存在に気づいた。

「なまえ?どうした?」
『…知らない土地に1人部屋は落ち着かない……』
「そうか。ここで寝るか?」
『…いいの?みんないるでしょ…』
「俺と研磨の間で寝りゃ誰も文句言わねーよ」
『…ありがと、てっちゃん…』
「おう」

結局こちらにいる間、予備の部屋で私が寝ることは一度もなかった。
さすがに着替えなどはみんながいるので自分の部屋に戻るしかなかったが、夜になったらてっちゃんと研磨の間に寝転がっていた。
そんな私を初めは戸惑っていたみんなだったけど2日目からはこれが通常だというような扱いになっていた。
きっと夜久さんあたりが私たちに対していちいちツッコミを入れていたら限がないとでも言ったのだろう。

合宿最終日。
烏野総合運動公園の中にある合宿所を借りていたため移動は少ない。
なので私はいち早く球技場にある体育館へと向かって中の準備を行っていた。
しばらくすると、見慣れた赤いジャージの軍団と黒のジャージに身を包んだ軍団が体育館へと入ってきた。
あれが烏野高校男子バレー部。
体育館に入ってきて少し時間が経ったあと、試合を始める前にてっちゃんと向こうの主将だろう人が握手をしていた。
そのときのてっちゃんの顔はなんとも胡散臭い笑顔だった。

ユニフォームに着替えたみんながコートに入っていく。
円陣になりこぶしをつき合わせて気合を入れている7人のスタメンたち。

「俺達は血液だ。滞り無く流れろ。酸素を回せ。"脳"が正常に働くために。行くぞ」
「「あス!!」」
『(…なにあれ……)』

何となくてっちゃんが言いたいことはわかるけども…。
これ絶対に研磨は恥ずかしがってるよ。
ぞろぞろと整列していく選手たち。
そうして漸く音駒高校対烏野高校の練習試合が始まろうとしていた。

((烏野のマネージャーさん、確かに美人だな…))

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