(かなわない)


『…なに』
「…別に」

今、私は目の前にいる人に少しイラついている。
隣近所のガキ。
3つ下のそいつは私の手元にあるレポートをガン見していた。

『…さっきから何なのよ』
「…別に。…お前がちゃんと勉強してると思ってな」
『あんたって本当に失礼よね。…て言うか何でここにいんの』

そう言うと目の前の奴は顎でキッチンのほうを指した。
そこには私の母と彼の母が向かい合わせでイスに座り、話し合っていた。
俗に言うお茶会だ。

『ついて来なければいいじゃない』
「腕引っ張って無理矢理つれて来られたんだよ!」
『それはご苦労様』

そう言って私はレポートや筆記用具を持ってその場を立った。
そんな私に気が付いてお母さんが話しかけてきた。

「あら?なまえどうしたの?」
『集中できないから部屋でやる』
「参考書はもういいの?」

私が部屋でやっていなかった理由。
それはレポートの参考書がお父さんのものでリビングの隣の部屋にあるためだった。

『もう大丈夫』

そして私は部屋に戻って再びレポート作成を始めた。
しばらくすると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

『…はい?』
「オレだ」
『…どうぞー』

そう言うと部屋の扉がゆっくりと開いた。

『…どうしたのー?』
「特に意味はねーけど。これ」
『?…ケーキ?』

視線をレポートから彼に移すと彼の手にはケーキと紅茶が乗ったお盆があった。

「おばさんが持って行ってくれってよ」
『ありがとー…』
「置いとくぞ」
『うん』

そう言って大輝は私の勉強机の隅に置いた。

「漫画、読んでいってもいいか?」
『いいよー。お好きにどうぞ』
「………………」

そして、しばらく私と大輝は無言でいた。
部屋にはパソコンのキーボードを打つ音と漫画のページをめくる音だけが響いていた。
疲れてきた私は机の隅に置かれたケーキに手をつけた。
気分転換に漫画を読もうと思って振り返ると大輝がベッドの上ですうすうと寝息を立てていた。

『ほんと寝顔は昔っから変わらない)』

私はおもむろに指で大輝の頬をつついてみた。
…が、なにも反応がなかったので、ほっといてベッドに座って漫画を読み始める。
ベッドの横に置いてあるサイドテーブルにケーキを置いた。
一冊を読み終えて二冊目を取りに行こうとしたら急に後ろに引っ張られた。

『!?…な、なに?』
「そんなに驚くことねーだろ」
『いきなら引っ張るからでしょ!ていうか…この手、なに?』
「なにって何が」
『何で私の腰にまわってるわけ?』
「さぁな」
『…シバくよ』
「やれるもんならやってみろよ。オレもう高校生だぜ?」
『…その顔、すっごいムカつく……』
「何だよ、それ」
『…別に……?』
「お前さ」
『何よ』
「…この状況で落ち着くなよ」

今の私はベッドに横向きに寝転がっている。
そんな私を大輝が後ろから私を抱きしめているような感じになっている。
私は後ろにいる大輝に完全に体を預けていた。

『…誰のせいで今みたいなことになったと思ってるの。自業自得よ』
「本当に3つ上とは思えねー」
『余計なお世話よ。そんなこと自分が一番わかってる』
「……………」
『ブサイクってブスってみんな言うけどさー…。そんなの本人が一番わかってるっつーの…。人に言われなくてもさぁ…』
「なにグチってんだよ」
『たまにはグチりたくなるもんよ。でも、こんなこと言うの大輝だけよ』
「………!」
『何黙ってんの?』
「別に」
『…変なやつ』
「うるせー」
『……………』
「……………」

その後、二人は会話もせずに目を瞑った。
なまえは体を預け、青峰はそんななまえを抱きしめた。

『…大輝が彼氏だったらって…今すごく思うよ…』
「…は?」
『何よ。そんなにビックリしなくてもいいじゃない』
「お前が変なこと言うからだろ」
『そんなに変だった?』
「…お前って年上派なんじゃねーの?」
『んー…。最近はどっちでも良くなった。甘えられて素でいられるなら誰でもいい』
「………………ったら……」
『ん?』
「……だったら付き合おうぜ」
『…は?』

さっきとは逆で今度は青峰の言葉になまえが驚いた。

「甘えられて素でいられたら誰でもいいんだろ?」
『そ、そうだけど…』

言葉を詰まらせるなまえに青峰はなまえを押し倒すようになまえの上に跨がった。

「さっきも言ったろ。もう高校生だ。力もお前よりあるし背丈だってとっくの昔に追い越してる。もうガキじゃない。お前一人支えることぐらいできる」
『だ、大輝…』
「なまえ…。オレは昔からお前のことしか見てない。…昔からずっと好きだった。…オレと付き合ってくれ」

目の前にいる大輝の瞳は本当に真剣だった。
心なしか濃紺の瞳が揺れている。

『…大輝。本当に私でいいの?』
「なまえじゃないと嫌なんだ」
『3つも上よ…?』
「かんけーねぇよ」
『でも…』
「ったく…。言ったろ、お前じゃないと嫌だって。昔から好きだったってな。それは今も変わらない。オレはなまえのことが好きだ」
『…っ……。あんまり調子に乗るんじゃないよ』
「あ?」

私は目の前にいる大輝の首に腕を回して思いっきり引っ張った。
そして、そのまま大輝にキスをした。

「!!!」
『………………』

チュッという小さな音とともに離れる唇。
青峰は突然のことに呆然としていた。

『フッ。固まってる。顔も真っ赤』
「…っるせー」

そう言って青峰は顔を背け、そのままなまえを抱きしめて首筋に顔を埋めた。
そんな青峰の背中になまえはゆっくりと手を回した。

『大輝…』
「ん?」
『ありがとう…。…好きよ』
「!」

その言葉に青峰は顔をあげてなまえの顔を見た。

『何?』
「…やべぇ………」
『んー?』
「…すげぇ、嬉しい」

にっこりとそう笑った青峰はなまえにキスをした。

『…んっ…。…もっ……やっ…』
「無理…。まだやめねぇよ…」
『ちょっ……んっ…んんっ〜〜…』

長く深いキス。
唇を離すとなまえは肩を上下に動かしていた。

「フッ。息止めてたのかよ」
『うるさいっ』

顔を真っ赤に染めたなまえ。
そんななまえを抱きしめて青峰は微笑んで優しくなまえの額にキスをしたのだった。


end

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