(伸ばし続けた先に)


私たちはずっと3人で一緒だった。
親同士も仲がいいから、よくお互いの家に遊びに行っては、ヘトヘトになるまで遊び倒した。
高校生になった今。
昔のような関係から少し変わった。
私もさつきと同じように、帝光中でバスケ部のマネージャーをしていた。
手際の良さや頭の回転の良さから、さつきと一緒に一軍専属のマネージャーになった。
3年になり、みんなバラバラになってしまったチーム。
大輝とさつきは、同じ学校に進学した。
私はそんな彼らにはついて行かなかった。
黒子くんと同じ誠凛高校に入学するも、バスケ部には入っていない。
放課後。
いつものように帰ろうと正門へ向かっていると、見慣れた頭が2。

『(なんで、こんなとこに…)』

2人にバレないように、彼らがいる方向とは逆の方向に、少し俯いて正門を出た。
背中を彼らに向けたあたりで、後ろから声をかけられた。

「あ、なまえちゃん!!」
『…さつき。と、大輝』

振り返ると、そこには嬉しそうに笑うさつきと、めんどくさそうに立っている大輝。
そのまま立っていると、さつきが抱きついつてきた。

『さつき…』
「なまえちゃん…。どうして桐皇に来てくれなかったの…?」
『………』
「大ちゃんだって、なまえちゃんはずっと一緒にいると思ってたんだよ?」
『……それはない』
「そんなことないって!」
『大輝はさつきがいればそれでいいんだし』
「……さつき。帰るぞ…」
「大ちゃん…!」
『昔っから大輝はさつきのことしか気にかけてない』
「あ?」
『なに?事実を言ったまでだけど』
「んだと?」
「2人ともケンカはよくないよっ…!今日だって本当は…!」
「黙ってろ、さつき」
 「…っ」

強く言われて何も言えなくなったさつき。
そんな2人にため息をついた。
そして、大輝の方を見て言葉を続けた。

『実際あんたはさつきがいれば、それでよかったでしょ』
「………」

険悪なムードに、周囲の人達は私たちを避けていく。
そんななか、クラスメイトの彼らがやってきた。

「なにやってんだよ?」
「青峰くんに桃井さんまで」
『黒子くんに火神くん』
「テツくん…」
「…帰るぞ、さつき」
「あっ。待ってよ!」

そう言って、大輝は横目で私を見たあと背中を見せて歩き始めた。
さつきは眉を下げて、私を見た。

『…行きなよ』
「うん…。また、来るからねっ…!」

さつきは、それだけ言って先に帰った大輝を追いかけた。
そんな彼らを見る私に火神くんが疑問をぶつけてきた。

「知り合いだったのか?」
『…ただの幼なじみよ』
「へぇー…。意外だな」
『火神くんこそ、知り合ってたの?』
「2回対戦した」
『結果は…?』
「一勝一敗です」
『!…大輝は、負けたんだ』
「はい。それから青峰くんも変わってきていますよ」
『そっか…。なら、いいんだ…。じゃあまた明日ねー』
「あ、おいっ!」

予想もしていなかった言葉を聞いたあと、私は家へと足を向けた。
今からなら、彼らに追いつくこともないだろう。
家もそれぞれ近い3人。
できるだけ、あの2人に会わないよう時間を考えて帰っていた。

『(なんだって、急に…)』

今まで、誠凛にまで足を運んで私の様子を見に来ることなんて一度もなかった。
メールも電話も、ほとんど見なかったことにしていた。
はっきり言って、関係を切られてもおかしくないことをしている。
さつきは本当にいい子だ…。
そんなさつきに私は"嫉妬"をしている。
なんて醜いのだろう…。
うっすらと瞳に溜まる涙を流すことなく、私は家に帰った。

前を歩く大ちゃんの背中を見つめる。
その背中はなんだか少し寂しそうな、悲しそうな…。
そんな感じがした。

「大ちゃん…」
「あ?」
「…なまえちゃんに嫌われたのかな…?」
「…お前はないだろ。嫌われてんのは…。…オレだろ」
「…大ちゃん…」
「あいつは全中が終わった後テツと一緒に姿を消した。…あいつにもテツと同じものが"見えてた"んだろ」
「……うん」
「それからだ。あいつがあぁなったのは」
「大ちゃんたちが変わったから…?」
「…たぶんな」
「でも、みんなもうあの時とは違うよ?」
「………」
「みんなテツくんとカガミンと戦って変わった。…なまえちゃんも変わらないのかな…?」
「…さぁな」

そう言って大ちゃんは真っ暗になり星が輝いている空を見上げた。

「(お前はどうしたいんだよ、なまえ…)」

二つ並んだ星と少しそれと離れて一つだけ光っている星。
まるで、その星たちが今の自分たちのように見えた。

「…さつき、先に帰ってろ」
「え?」
「ちょっと、寄ってくわ」
「ストバス?」
「あぁ」
「わかった!遅くならないようにね!」
「わかってるっつーの」
「じゃあまた明日ね」
「おー。気をつけろよ」

青峰はさつきの背中を見送ったあと、来た道を引き返した。
向かった場所は家から一番近いストバスコート。
青峰は知っていた。
なまえがこのストバスコートを通って帰っていることを。
しばらくして聞こえてきた足音。
その音の持ち主はオレを見て足を止めた。

「よぉ」
『………』
「はっ。無視かよ。よっぽどオレのことがイヤになったみてーだな」
『…別にそういうわけじゃ』
「ま、どっちでもいいけどよ」
『…っ』
「オレはいーけどよ。さつきだけには普通にしれやれ」
『…結局さつき、か…』
「は?」
『なんでもない。ご忠告ありがとうございました』
「………」
『それだけ?だったら帰るけど』
「…お前がそうなったのはオレのせいなのか?」
『………』
「負けてから気づくなんて遅すぎるっつーのはわかってる。けど中学の頃はお前はずっとそばにいてくれるってどっかで思ってたんだ」
『負けたってのは本当だったんだね』
「……あぁ」
『別に私がこうなったのは誰のせいでもない。だから気にする必要なんてない』
「そーかよ…」
『もういい?』

そう言ったなまえは少しイラついていた。
はっ…。
ここまできたら、もう昔のようにはいかねーのか…。
自分の手のひらを見る。
離すのは簡単だった。

「手放すのは簡単なのによ」
『…なに?』
「繋ぎ直すのは難しいんだな」
『………』
「いつでも届くと思ってたわ」

見つめていた自分の手を無造作にズボンのポケットに突っ込んだ。

『…何でも諦めたらそこで終わりって誰かが言ってたけどね。まぁどうでもいいけど。…じゃあね』

私はゆっくりと彼の横を通り過ぎていく。
そんな沈黙でさえ痛い。
私は伸ばされた手をつかまなかった。
一度拒んだものを自分からなんてできない。

『(そっか…。もうその手は私には向けてくれないんだ…)』

分かってたことなのに目の辺りにすると、思っていた以上に辛い。
背中に感じる視線。
こんな終わり方になるなんて思ってなかったよ。

『…ばいばい。…大輝』
「っ!…自分から消えようとすんじゃねーよ!」

叫び声が聞こえたと思ったら背中に感じた衝撃。

『!は、なして…!』
「何がばいばいだよ!こんなときだけ名前で呼びやがって!ふざけんなよ!何がさつきえがいればいいだ。オレは…。お前さえいてくれば、それでよかったんだよ…」
『………』
「オレに敵うやつがいなくなってバスケがつまらなくなって…。それでもお前がいてくれたからバスケを続けてたんだ。なのに、オレから離れていきやがって…」
『…大輝』
「もうオレから離れようとすんなよ…。頼むから…」
『あれだけ大輝たちに酷いことしたんだよ?なのになんで…』
「ばーか」

大輝はさっきよりも強い力で私を抱きしめた。
耳に大輝の吐息がかかる。

「好きだからに決まってんだろ」

手を離したはずだった。
けど、彼は懸命に腕を伸ばし続けてくれていた。

『…大輝。ありがとう…』
「そばにいろよ。ずっと…」
『うん…』

背中の大好きな温かさを感じながら静かに涙を流した。


end

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