(チョコより甘い…。)


2月14日
世間はバレンタインで盛り上がっている。
そんなバレンタインも関係ないのように桐皇学園の体育館はボールをつく音が響いている。
長時間の休憩を入れ、次の練習に備える。
そこにマネージャーである桃井さつきは大きい紙袋をもってやってきた。

「みなさん!ハッピーバレンタインです!」
「「…………」」

さつきの言葉に一同は青ざめる。
それもそのはず…。
彼女は、はちみつレモンのレモンを丸ごと入れてくるぐらいだ。
そこから想像した彼らは素直に喜べない。
そこに、その場の空気を救った人物がいた。

「…おめーの作ったのはいらねー」

それは、最近真面目に練習をしている桃井さつきの幼なじみの青峰大輝だ。

「なんで?!」
「今までまともに食えるもん作ってねーだろうが!」
「今年は大丈夫だもん!!」
「「(…今年は……?)」」
「去年は殺す気だったろ」
「そんなことないもん!」

幼なじみの2人は他の部員そっちのけで話を進める。
他は2人の話を聞きながら百面相を繰り返す。
そこに、もう一人のマネージャーがやってきた。

『今吉先輩?どうしたんですか?』

引退後も練習に参加している今吉先輩。
そんな今吉先輩が百面相をしていたので気になって仕方なかった。

「おー。やっと来たか。いや、なんかなぁ…。桃井がバレンタインのチョコ持ってきよったみたいやわ」
『あぁ!それで大輝くんはあんなに警戒してるんですね』
「まぁな。その気持ちワシらもよー分かっとる」
『あはは…。さつきの料理はヒドいから…』
「去年はなんかあったんか?」
『どうしてですか?』
「桃井が”今年は大丈夫や”ゆうから気になってしゃーないんや」
『あー…。帝光時代にちょっと…』
「なんや、面白そうな話か?」
『まぁ、想像はできると思いますけど…。3年のときに私とさつきでレギュラーに何かあげようって決めたんですけど…』

私は去年のバレンタインのことを思い出しながら一つずつ話した。

++++++++++

「なまえちゃん!」

部活が始まる前にドリンクを作っていると、さつきが駆け寄ってきた。

『どうしたの?』
「今年のバレンタインはどうするのかなって思って…」
『あー。今年最後だしあげようかなって思ってるよ』
「そっか。じゃあ私も作ってくる!」
『えっ…。…一人で大丈夫…?』
「うん!ずっとなまえちゃんと一緒に作ってたし!」
『…うん。わかった。じゃあみんなには内緒ね』
「うん!」

やっぱり一緒に作れば良かったと、あとになって後悔するのだった。
当日。
私たちはそれぞれ作ってきたものをレギュラーである「キセキの世代」のメンバーに一人ずつ渡していく。
さつきが持ってきたのは、紙袋で包装されていたため中身は見えない…。
みんなは、恐る恐る紙袋を開けた。
そこには可愛らしいカップケーキが一つ。
私もそれを見て、ひとつため息をついた。

「さっちん、うまくなったね〜」
「ほんと?!」
「ちょっと袋開けるのドキドキしたっス…」
「今回は大丈夫そうだな」
「ちょっと、きーちゃんに大ちゃん!それどういう意味?!」
「今いただくよ、桃井」
「あ、うん!」

赤司はカップケーキを手にとり口に入れる。
それに続き、みんなも一口カップケーキをかじった。

「…どう?」
「「…………」」

みんなはカップケーキを片手に固まった。
中には冷や汗をかいている人や手が震えてる人もいた。

『(…まさか……)』

それを見て背中に冷や汗が流れるのを感じた。

「みんな、どうしたの?固まっちゃって…」
『…さつき。ごめん、さっきドリンク全部なくなっちゃったから新しく作ってきてくれない?』
「うん、わかった!」

そして、さつきは体育館を出て行った。
と同時に、みんなはむせ返した。

『大丈夫…?』
「「ごほっ…。…げほっ…」」
『…はは……』

私は頬を引きずって笑った。
その笑いは乾いていた、
いつも何事にも冷静な赤司でさえも、だめだったらしい…。
恐るべき威力…。

「……死ぬっス…」
「さつきのやつ…。見た目だけじゃねーか…」

そう言って2人は床に倒れた。

『だ、大丈夫じゃなさそうだね…』

そして、私は2人に余っていたドリンクと私が作ったブラウニーを渡した。

『真ちゃん…。固まっちゃってるよ…』

横に立っている真ちゃんは石像のごとく固まっていた。

『あっくん。はい、ドリンク』

ずっと渋い顔をしていた紫原に先ほど2人に渡したものと同じものを渡した。

「さっちん…。どうやったら、あんなのが作れるの〜…」
『あはは…』

そう言いながら渡したブラウニーを口の中に放り込んだ。
そして、壁にもたれて座ってしまった征ちゃん。

『大丈夫…?』

そんな彼に、ドリンクとブラウニーを渡した。

「油断したよ…」
『あはは…。はい、ドリンクとブラウニー』
「あぁ、ありがとう」

そして、最後にテツくん。
征ちゃんの隣でぐったりとしていた。

『テツくん。ドリンクと、これ私から』
「ありがとうございます」

そして、ドリンクを作ってきたさつきが戻り、話を流すかのように赤司が練習を再開させたのだった。

++++++++++

『と、こんな感じです』
「…恐ろしいな、桃井…」
『なので同じことが起きないように今年は一緒に作りました。味見も私がしているので安心してください』
「ほんま助かるわ。桃井!それワシらがもらうわ!」

未だに言い合いを繰り広げていた2人だったが、先輩の声に反応してこっちに来た。
それを見た後、私は大輝くんの方へ行く。

『今年は一緒に作ったから安心して』
「去年みてーなことになんねーなら食うか」
『私が味見したから大丈夫だと思うよ』
「だったら安心だな」

そう言って大輝くんは私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。

『大輝くん』
「あ?」
『はい』

差し出されたそれは綺麗にラッピングされた箱。

『今年はさつきと一緒に作ったから…。大輝くんだけ一人で作ったの。去年とは…。…その…。と、友達じゃないし…』
「………」

照れて顔を赤く染めるなまえ。
そんななまえに自然と口の端があがる。

「なまえ」
『ん?』

名前を呼ぶと見上げる君。
そんななまえに軽く触れるだけのキスをした。

『!!みんなに見られたら…!』
「見えねーよ。オレの背中で」

もっと顔を赤くするなまえ。

「なまえ、ありがとう」

オレの言葉を聞いて満面の笑みを浮かべるなまえ。
そんななまえにもう一度、触れるだけのキスをした。


end

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