(私を見て…。)


叶わないって分かってる。
でも、好きなの…。
出きることなら、私を見て…。

学校の階段を上っていく。
ある人物がいるだろう、そこの扉を開け、給水塔の裏を覗く。

『ったく…。こら!いつまで、ここにいるつもり!?部活始まるよ!?』
「あー…?」

お目当ての人物は予想通り、その場でぐっすりと眠っていた。

「もう少し…」
『もう少し、じゃない!早く行かないと征ちゃんの雷が落ちるから!』
「……うるせーな…」

寝起きで機嫌の悪い彼は、私の腕を引いて自分の方へと引き寄せた。

『ちょっと…!』
「うるせー…。…黙ってろ……」
『私は抱き枕じゃない!』

どうにかして私は青峰の腕から抜けた。

『早く起きる!』
「ったく…」

渋々といった感じで青峰は立ち上がった。

「早く行くぞ」
『今まで駄々コネてたのは誰よ!』
「さぁな」

青峰は誤魔化すのと同時に私の頭をグシャグシャと撫でた。

『もう!髪がグシャグシャになるじゃない!』
「んなこと、いちいち気にしてんのかよ」
『気にするわよ!』
「あー、はいはい。行くぞ」
『…アホ峰……』
「あ?何か言ったか?」
『何にも!』

なまえは、そう言いながら前を行く青峰の横を通り過ぎた。
そんななまえの小さな背中を青峰は見つめていた。

『征ちゃん!つれてきたよー!』

体育館に入りそう呼ぶと、赤毛の男子生徒が振り返った。

「遅かったな」
『アホ…。青峰がなかなか起きなくて』
「おい。今何を言いかけた…?」
『何が?』
「その辺で止めておけ。…今日は運が良かったな。今からミーティングだ」
「ミーティング?」
『明日から地域予選だよ!忘れたの!?』
「あー…。そう言えば、そうだったな」
『本当にアホね…。さつきが手を焼くのも分かるわー』
「なまえちゃんったら…」
「ぐだぐだ言ってないで行くぞ。…なまえ」
『うん』

なまえは赤司に呼ばれて隣を歩く。
そんな2人を後ろから青峰とさつきが見ていた。

「あの2人、本当に仲いいね」
「幼なじみなんだろ」
「みたいだね」
「………」
「…大ちゃん」
「んだよ」
「妬きもち?」
「はぁ?」
「おもちゃを盗られた子どもみたいな顔してる」
「…るせーよ……」

そんな青峰とさつきの様子をなまえは横目に見ていた。

『………』
「…気になるのか?」
『…別に?』
「昔からの悪い癖だ」
『え?』
「自分の気持ちを人には言わない。見せない」
『……いいの。征ちゃんさえ分かってくれれば』
「………」
『征ちゃんは昔から私のことを一番に理解してくれてる人だから』
「…オレだけでいいのか」
『………』
「自分を理解してほしい人は他にもいるんだろう」
『……… 』
「今のままだと何も変わらない」
『…分かってる』
「………」
『先に行ってビデオの準備、してくる…』

なまえは赤司から逃げるようにミーティング室に走っていった。
そんななまえに赤司は小さくため息をついた。
そして、青峰はなまえの様子を黙って見ていた。
次の試合の相手になる学校の過去の試合を見る。
そして、試合が終わったと同時に、赤司はテレビとビデオの電源を切った。

「桃井」
「8番。DFに長けていてOFには参加はほぼない。だから今年から参加する可能性もあるけど、そこまで戦力にはならないと思う。仮に、きーちゃんが攻めても止められることはほぼないわ。あとOFの5番だけど、最近急成長してて、外からも打てるみたい。たまにフックも使うみたいだから要注意ね」
「資料は作ってある。各自持って帰ってくれ。では解散だ」

そして、それぞれは席を立ち、部屋を出ていった。
その場には、赤司となまえが残った。

『どうして電源まで切るかなー』
「悪いな」
『もう慣れたよ』

再びテレビとビデオの電源を入れて、映像を流す。

『この5番のフックだけど、フックにする瞬間に癖がある』
「癖?」
『フックに入る瞬間、微妙に右足が内側に入るの。これは征ちゃんでしか反応できない』
「もう一度流してくれ」
『わかった』
「………」

黙って映像を見る。
そして、理解できたらしく首を立てに振った。

「なるほどな、さすがなまえ。他には?」
『特にないよ』

そう言いながら、なまえはテレビとビデオを片づけた。

『自主練してきたら?』
「そうするよ。”あと”は任せた」
『…はいはい』

そう言って赤司も部屋を出た。
一人になったはずの部屋だったが、構わずなまえは言葉を発した。

『何か用でも…?…青峰』
「………」
『自主練の相手なら涼太に頼んでね』
「…久しぶりに相手しろよ」
『どうして?私よりも涼太の方が相手としていいでしょ』
「………」
『私はもうバスケを辞めたの。知ってるでしょ?』
「………」
『…ったく、なんなのよ』
「赤司のこと…。…好きなのか…?」
『…は?』
「………」
『征ちゃんは幼なじみよ。青峰で言うさつき。今更他の感情なんてないよ』
「…だったら」
『…?!』

さっきまで遠かった彼の声。
それが背を向けている間に、すぐ後ろに来ていた。
それに気づけずに、何故か今彼の腕の中にいる。

『…青、峰……?』
「…赤司にそれ以上の感情がねーなら……」
『………』
「…ねーなら、オレだけを見てくれ…」
『…えっ……?』
「赤司の知ってる顔も知らない顔も全部オレだけに見せろよ」
『…青峰……』
「…お前が他の誰かと話してるのを見るとモヤモヤする……」
『………』
「気づいたら、いつもなまえのことを考えてる」
『………』
「いつも、なまえが起こしに来るからと分かって、あそこで寝てた」
『………』
「…どうしようもねーぐらい、好きなんだ」
『青峰…。…私も、いつも気づいたら青峰のことを考えてた。誰かと楽しそうに話してる姿を見てモヤモヤしてた。…私も、どうしようもないぐらい青峰のことが好き…』

なまえはそっと自分を抱きしめる青峰の腕に手を添えた。
そんななまえに青峰は甘えるように首筋に顔を埋めた。

『…青峰は……』
「…あ?」
『さつきのことが好きだと思ってた…』
「あ?何でさつきなんだよ」
『仲いいし』
「それを言うなら、お前もだろ」
『征ちゃんは違うよ』
「どうだか」
『もー。さっき言ったじゃない…。征ちゃんは私の気持ち言わなくても分かってたし…』
「さつきも同じようなもんだ」
『…そうなの?』
「あぁ。それにあいつはテツしか見てねぇよ」
『…そだね』
「……なまえ」
『んー?』
「離さねーから」
『覚悟しとくよ』
「おう」


2人はにっこりと笑った。
そんな2人を優しい夕日が照らしていた。


end

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