(願わくば、あなたの隣に)


ある日の休日。
子供が熱を出したので、近くの病院に連れて行った。

「ぅーぁー…」
『もうちょっだからね』

小さな体を抱えて向かう。
シングルマザーは本当にツラい。
疲れた体に鞭をうち、病院を目指す。

「みょうじさーん」
『あ、はい』

受け付けを済ませ、待っていると名前を呼ばれた。
看護師に案内され診察室に入ると、そこには見知った顔。

「みょうじさん。今日はどうされ…。…あれ?」
『か、和成…?』
「マジ?なまえじゃん」
『びっくりした…。和成の病院、ここだったんだ』
「おー。ずっとここだぜ」
『最近引っ越して来たから全然知らなかった』
「オレもまさか、ここで会うとは思ってなかったぜ。で、今日は?」
『この子が、熱出しちゃって…』
「オッケー」

手際よく診ていく元同級生の高尾和成。

「5日分の薬、出しとくから」
『はい』
「あ、そうそう。来週の夜って暇?」
『来週?』
「この子も連れてきていいからさ。メシ行かねー?」
『うん。いいよ』
「よっしゃ。んじゃまたメールするわ。お大事に」
『わかった。ありがとうございました』

そして、診察室を出た。
しばらく病院の中を歩いていると、また見知った顔を見つけた。
しかし、先程の和成とは違い、こっちは出来れば会いたくなかった人。

「!」

向こうも私の存在に気づき、目を見開いた。
そして、視線は私の腕の中で眠る子へ移る。
少し私と距離を置きながらも、話しかけてきた。

「…元気だったか…?」
『…うん』
「…そうか。どうして、ここにいるのだよ」
『この子が熱出しちゃって…』
「高尾に診てもらっていたのか?」
『うん』
「………」
『………』

それ以上の言葉は出なかった。

『そろそろ、行くね』
「………」

そう言って背中を向けた。

「なまえ」
『………』
「オレじゃ駄目なのか」
『……今度検査するの』
「…検査…?」
『だから、髪の毛ちょうだい』
「!…少し待っていろ…」
『…うん』

しばらく待っていると、真ちゃんは何かを持って帰ってきた。

「これを持って行け」
『なに…?』

一つの封筒を手にする。

「オレの検査結果なのだよ」
『え…?』
「いつか、そう言うだろうと思って用意をしておいた」
『……そっか…』
「なまえ。これだけは言っておくのだよ」
『………』
「その子が誰の子なのかは分からん。だが、そんなことは関係ない」
『………』
「お前が産んだ子だ。だから間違いなくお前の子なのだよ」
『!』
「今はそれで十分なのではないのか?」
『………』
「…例え、父親がオレじゃなかったとしてもオレはずっとお前を待っているのだよ」
『…真ちゃん……』
「……。オレはそろそろ行く。結果は知らせてくれなくてもいい。…お前が戻ってくるのを待っているのだよ」

そう言って彼は私に背を向けた。

『…真ちゃん。…ありがとう…』

私の小さな呟きは、騒がしい病院に消えた。
願わくば、あなたの隣にいることを…。


end

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