(君のうしろ)


中3の冬。
普通なら受験勉強に励んでいるはずの時期。
そんなものも関係なしにボールを片手に家を出た。
家に一番近いストバスに足を向けた。
この寒い時期に外に出る人もいなく、貸し切り状態だった。
コートのフェンスに手をかけた時、奥のコートからボールをつく音が聞こえた。

「(誰だ…?)」

ここのコートを使う人は限られている。
奥のコートに足を進めると、そこには一人の少女。
スリーポイントラインからボールを打っては拾いを繰り返していた。

「…………」

黙ってボールが静かにリングに通るのを見ていると、突然話しかけられた。

『入らないの?』
「…気づいてたのかよ……」

試合帰りなのかジャージ姿の彼女。
その背中には[桐皇]と書かれていた。
みょうじなまえ。
一つ上の近所の先輩。
オレの物心ついたときから一緒にバスケをしていた。
バスケと出会ったのも彼女が一年先に始めていたからだ。

『…こんな時期に来て大丈夫なの…』
「あ?別に何ともねーよ」
『バスケ推薦で行くつもり?』
「だったら悪ぃかよ」
『むしろ推薦じゃない方がおかしいわよ。…[キセキの世代]のエース、青峰大輝くん?』
「………」
『エースだったら全国からお声がかかるわよ』
「………」
『ま、どこに行こうが私には関係ないけどね』
「………。…今度なまえのところに行く」
『桐皇に?』
「あぁ」
『ふ〜ん…』
「もしそうなったら…。まぁよろしくな」
『…あんたの見守りなんて、もうごめんよ。さつきちゃんがいるんだから私はもういらないでしょ』
「………」
『…どこでも行けるんだから別に桐皇じゃなくてもいいんじゃないの?』
「………」
『いろんな所から声がかかってるって言うのは凄いことだと思うよ。それだけ、あんたの実力が認められてる証拠よ』
「………」
『まぁ人生に関わることだから、ゆっくりと考えるといいんじゃない?じゃ私は帰るから…』

そう言ってなまえはゴール下に置いていた鞄を背負いコートのフェンス手をかけた。
そんな彼女を青峰は後ろから抱きしめた。

『…なに?』
「……大した理由はねーよ…」
『………』
「………」
『………』
「………」
『いい加減離してくれない…?』
「………」
『聞いてる…?』
「………」
『はぁ…』

全く離す気の見えない青峰になまえは折れて、そんな彼に体を預けた。
そんななまえを青峰は何も言わずに腕に力を入れた。

『……強くなったよね…』
「あ?」
『…昔は私よりも小さくて…。私の後ろをいっつもついて来てたのに…』
「………」
『いつの間にか、それが逆になっててさ…』
「………」
『まさか、私の後ろをついて来ていた子が、すごい才能の持ち主だったなんてね…』
「………」
『………』
「……今でも」
『………』
「オレは、今でもなまえの後ろにいる…」
『………』
「誰の背中を見てバスケやってきてたと思ってんだよ…」
『………』
「変化自在。型のないバスケスタイル」
『………』
「バスケの楽しさ。…ゾーンも」
『………』
「全部あんたを見てバスケをやってきた」
『………』
「少なくともオレはあんたを尊敬してる…」
『………』
「だから、オレの前から消えようとすんなよ…」
『…っ……』

青峰の言葉になまえは涙を流し始めた。
そんななまえを青峰は向い合せにさせてから再び抱きしめた。

「…ずっと、オレの前に…。一歩先にいてくれよ。オレはその後ろを歩いてくから…」
『…だい、き……』
「…やっと名前、呼んだな…」

涙を流すなまえに青峰は優しく微笑んだ。

「…一回しか言わねーから…」
『…?』

青峰はゆっくりとなまえの耳元に口を寄せた。
そして、少しかすれた低い声で、こう囁いたのだった。

「…好きだ」


end

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