(好きの種類)


『アッくん』
「んー…?」
『あのね』
「うん」
『………』
「…何?」
『…はっきり言っていい?』
「うん」
『すごく重たいです!』
「うん」

今の状況を説明します。
中学の頃から一緒にいる[キセキの世代]の紫原敦。
なんと言うか、ある意味目が離せなくて同じ高校に進学することにした。
そして、東京出身である私たちは学校の寮で過ごしている。
わりと寮は自由で、男子寮に女子がいても女子寮に男子がいても何も言われない。
そして、現に私の部屋にはアッくんこと紫原敦が来ている。
それもテレビを見ていた私に全体重をかけるかのように、私を後ろから抱きかかえている。

『(本当に大きいなぁ…。私がスッポリ入っちゃうんだもんな…)』

私も女子としては大きいほうで170cmもある。
周りの女子とは頭一つ分も違う。
しかし、この男はそれのさらに上をいく。

『アッくん』
「んー?」
『今日部活は?』
「………」
『…サボったの?』
「………」
『服装はやる気満々って感じだけど…』
「んー…」

さっきから、ずっとこんな感じだ。
んー…。とか、うん。とかしか言わない。
一体、この子はどうしたいのか…。

「なまえちんさ〜…」

どうしようか迷っていると今日会ってから初めてきちんとした言葉を聞いた。

『ん?』
「どうしてここ(陽泉)ではマネージャーしないの?」
『え?』

全く予想していなかった言葉に少し戸惑う。

『アッくんは私にマネージャーをやってほしかったの?』
「うん」
『どうして?』
「だって、いつもオレだけ褒めてくれんじゃん」
『うん?』

確かに帝光中時代はさつきと一緒にマネージャーをしていた。
みんな平等に接していたつもりだったんだけど…。

「それがあったからオレいつも頑張ってたし。なまえちんに褒められたいから」
『そうだったの?』
「うん。今インターハイ前でみんなやる気満々だし…。はっきり言って、そう言うのめんどー…」
『あははっ…』

中学時代の彼を知っているからこそ言葉がでない。

『でも、アッくん負けるの嫌いでしょ?』
「うん」
『だったら練習しないと』
「んー…」

生返事。
これは今日は行かないつもりだな…。
そう思っていると、部屋のチャイムが来客を知らせる。

『はーい!』

いまだに身体を預けてくるアッくんから何とか抜け出して部屋の入口へと向かう。
部屋の扉を開けると、目の前には美男子。
一つ年上の氷室辰也だ。

『辰也先輩』
「久しぶりだね、なまえ」
『そうですね!今日はどうしたんですか?』
「もしかしたら敦が来てないかと思って…」
『ビンゴです、先輩。さっきからずっとここにいます』
「やっぱり…敦のことだからサボるならなまえのところだと思っていたんだ」
『単純ですもんね。アッくん』
「あぁ」
「…室ちーん…」
「敦」
『わゎっ!?』

楽しく辰也先輩と話していると、後ろからアッくんが現れて不機嫌な声で彼の名前を呼び、私を自分の方へと引き寄せて腕の中へ閉じ込めた。

「なんでここにいんのー?」
「敦を探しに来たんだ」
「ふ〜ん…」
「それとなまえに会いに」
「………」
『(先輩。そんなこと言ったら…)』
「室ちん」
「なんだい?」
「今日は絶対に行かない」
『(ほら、やっぱり…)』
「…そうか。残念だな。敦を探しに来たのもあるがなまえには会いに来ただけじゃなくて呼びに来たんだ」
『私を?』
「………」
「監督が少し話をしたいみたいでね。体育館に来てほしいみたいなんだ」
『こんな恰好で大丈夫?』

今日は休日だったため、部屋着であるジャージから着替えていない。

「むしろ、その方がいいと思うよ」
『やっぱり、そういう話?』
「たぶんね」
「………」

アッくんは私を抱きしめたまま、ずっと黙っている。
彼はこう見えても頭はいい。
きっと私と先輩の話の内容の意味も分かっているだろう。

「敦」
「…何」
「部活はどうする?行かないのならオレはなまえと一緒に体育館に戻るけど?」
「…行く」
『(先輩。アッくんの操り方うまいなぁ…)』
「フッ。じゃあ行こうか」
『はい』
「………」

先輩のアッくんの操り方に少し感動しながらも歩く。
そんな私の服の裾を摘みながら、アッくんはとぼとぼと私の後ろをついてくる。

「(クスッ。本当に大きな子どもみたいだな…)」

そんなアッくんを見て先輩がそんなことを思っていたことは知ることはなかった。
結局、部活に参加したアッくん。
そしてマネージャーとして男子バスケ部に入部することになった私。
何でも最近サボりがちなアッくんを部活に来させるための対策なんだとか…。
私がいれば部活に来るという情報は先輩が誠凛の火神大我に聞き、火神君がテツ君に聞いたんだとか…。
ようするに、同じ中学だったテツ君情報だ。
なぜ私がいれば来ると言ったのかは、私にはわからないが。
そんな流れでマネージャーの仕事をさっそくやっている私を見たアッくんは元気に部活の練習に取り組み始めた。
そんなアッくんに先輩はまた単純だと言って笑っていた。
その日の部活を終え、部屋に戻るが、その後ろを巨体がついてくる。
部屋に入った途端に、後ろから抱きしめられてベッドにダイブした。

『わゎっ!?』

私はアッくんに抱きしめられたまま、アッくんと一緒にベッドに寝転がるような形になってしまった。

『ちょっと。いい加減に怒るよ?』
「…ごめんなさい」
『ったく…』

呆れながらも体をアッくんに預ける。
そんな私をアッくんはギュッと抱きしめた。

「なまえちん」
『ん?』
「室ちんのこと好きー?」
『うん?好きだよ?』
「………」
『アッくん?』
「…じゃあ、オレは?」
『え…』

不意をつかれて、顔に熱がこもる。
そんなことも知らずにアッくんは聞き寄ってくる。

「ねー。オレは?」
『えっと…』
「どっち?好き?」
『す、好きだよ?』
「………」
『…アッくん?』
「それは…」
『ん?』
「室ちんの好きと一緒?」
『っ…』

これは分かってて言っているのか。
本当に分かっていないから言っているのか。
アッくんのことだ。
…きっと後者だろう。

「オレね。室ちんも赤ちんもみんな好き。でもなまえちんの好きだけは違う」
『え?』
「なまえちんが室ちんと楽しそうに話してたら、ここがムカムカする…」

そう言って自分の胸あたりをとんとんと叩く。

『アッくん…』
「何でかは分かんないけど…」
『アッくん』
「何?…っ!?」

ずっと向こうの方を見るアッくんを呼ぶとこっちを見た。
そんなアッくんの頬にキスをすると彼は固まった。

『アッくん。確かに辰也先輩も好きだけど。アッくんへの好きとは違うよ?』
「そうなの?オレと一緒?」
『一緒。アッくんは"好き"じゃないて"大好き"なの』
「!…それ。オレも」

そう言って微笑んだ彼は、とてもきれいな顔をしていた。


end

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