(恋の予感)


『一生のお願い!』

部屋の扉を勢いよく開けて頭を下げながらそう言ったが返ってきたのは無言。
頭を上げるとお目当ての人はベッドに上半身だけを起こして手にはバスケの雑誌。
そして、私を奇妙なものでも見たかのような目で見ていた。

「………」
『…ちょっと変なものでも見たような目すんのやめてよ!』
「いきなり入ってきて変なこと言うからだろ」

お目当ての人。
それは幼なじみの青峰大輝。

『変なことなんて言ってない!』
「つーか、ノックぐらいしろ」
『えー…。面倒くさい…』
「面倒、じゃねーよ。…で、なんだよ」
『そうそう!バスケ教えて!!』
「あ?んなめんどーなことするか」
『いいじゃん!お願い!』
「なんでオレなんだよ。他にいるだろ」
『涼ちゃんは仕事。真ちゃんは合宿!だから大ちゃんしかいないの!』
「…めんどくせー……」
『いいじゃん!バスケできるんだから!』
「お前じゃ相手になんねーし」
『ヒドッ!ね、お願い!』
「他をあたれ」

そう言って読みかけだった雑誌を再び読み始めた。

『球技大会勝てなかったら罰ゲームしなくちゃだめなの!』
「すりゃーいいじゃねーか」
『いやよ!負けたらキスなんて!!』
「………………は?」

私の言葉に反応したのか雑誌から目を離した。

『…負けたら勝ったチームの男子にキスしなきゃだめなの!だからバスケ嫌だったのに、噂の青峰大輝の幼なじみだからってバスケにされちゃったの!』
「………」
『ほかのクラスなんて全員現役バスケ部だよ!?チームメイトだってバスケ部なのに…。一人だけ足りなくて…。私だけ素人って…!足引っ張りたくないし…』
「…はぁ……。仕方ねーな…」
『教えてくれるの!?』
「あぁ。その球技大会はいつだよ」
『今月末だからあと3週間ぐらい…』
「十分だろ。お前そこそこできるからな」
『でも本当にそこそこだよ?』
「嘘つけ。体育5のくせに…」
『え、なんで知ってんの??』
「気にすんな。運動はできねぇわけじゃねーから大丈夫だろ」
『ほんと?』
「たぶんな。今からするなら着替えねーと、それ動きにくいぞ」
『着替えなんて持ってきてない…』
「ったく…。ちょっと待ってろ」

そう言ってタンスをあさる大ちゃん。
奥の方から1枚のTシャツとジャージを取り出した。

「ほら」
『ありがと』

大ちゃんから、それを受け取ると大ちゃんはいきなり目の前て服を脱いだ。
いくら幼なじみでも目の前でいきなり服を脱がれると目のやりどころに困る。

『なっ…』
「あ?」
『いきなり脱がないでよ!』
「いちいち気にすんな。後ろ向いててやるから着替えろよ」
『ん、わかった』

そして大ちゃんが後ろに向いたのを確認してから着替えた。
大ちゃんに貸してもらったそれは大ちゃんの体の大きさを再認識させるほどだった。

『でかい…』
「それでも小さい方だったんだけどな」
『下は紐結んだら大丈夫だけど、半袖のはずが…』
「…七分袖だな」
『昔はこんなんじゃなかったのになぁ…』
「小さくなったな。縮んだんじゃね?」
『大ちゃんがでかくなったんだよ!!』
「とりあえず行くぞ」
『あ、ちょっと待って!』

手にボールを持った大ちゃんを追いかける。
家を出て、しばらく歩くとバスケコートがある公園に着いた。

『懐かし〜。よく大ちゃんにくっついて来てたなぁ…』
「昔ほど使ってるやつはいねーけどな」

大ちゃんは2、3回ボールをついた後、リングに向かってボールを投げた。
ボールはキレイな弧を描いてリングを通った。

『さすが!』
「お前もやってみろ」
『そんなところからとか無理!』
「別にここでやれなんて言ってねーよ。普通にフリースローラインからやりゃあいい」
『ここ?』
「おー」

それから大ちゃんによる特別バスケ教室が始まった。
シュートやドリブルにパス。
基本中の基本を2週間。
残りの1週間は1対1(ワンオンワン)
ひたすら大ちゃんからボールを奪うことに専念。
結局一度もとれなかったけど、大ちゃんが言うにはセンスはあるらしい…。
そして、当日…。

「なまえ!ナイスシュート!!」
『ありがと!』

チームメイトとハイタッチ。
キレイにシュートが決まるとこんなにも気持ちいいものなんだ!

「すごいね!なまえ!素人とは思えないよ!」
「現役顔負けだね」
「誰かに教わったの?」
『うん!バスケバカの幼なじみに!』
「じゃあ、あの青峰大輝くんか!」
「もう入部しちゃいなよ!」
『えー!無理だって!』

大ちゃんのおかげで何とか優勝できた。
罰ゲームしなくて済んだよ、大ちゃん!

球技大会があった週の日曜日。
バスケ部の練習は参加していない、ということを知っていたので大ちゃんの家に向かった。
おばさん曰く部屋でゴロゴロしているらしい…。
おばさんがそう言っていたのをお母さんが聞いていた為の情報。
家に着くとおばさんは快く入れてくれた。
そして、そのまま大ちゃんの部屋に行った。
この前、注意されたので一応ノックしてみた。
…が、返事がないので勝手に入ることにした。
部屋に入るとベッドの上には大きい塊。
大ちゃんはまだ夢の中だった。

『もうお昼なのに…』

うつ伏せで顔だけ横に向けて寝ている。

『(…こう見るとキレイな顔つきだよね……)』

ベッドの横に座って大ちゃんの顔を覗きこむ。
そして大ちゃんのほっぺたをつついた。

『大ちゃんのおかげで優勝できたよ。ありがとう』
「…………」
『また一緒にしようね、バスケ』
「…………キスしなくてすんだのか…」
『!…なんだ起きてたの?』
「…さっきな…」
『おはよう。ねぼすけさん』
「おー…。…勝ったのか?」
『うん!おかげさまで!』
「おー、そりゃよかったな」

そう言って大ちゃんは大きな手で私の頭をポンポンっと軽く叩いた。

『バスケ部に勧誘されるぐらい頑張ったよ!』
「そうか。ま、オレが教えたんだから当たり前だろ」
『もう調子いいんだから…。…でも』
「あ?」
『始めは教える気なかったじゃない?』
「そうだったな」
『どうして途中で変わったの?』
「…あー……」
『?』
「…何でもねーよ。暇だっただけだ」
『?…変な大ちゃん』
「るせー…。(お前が誰かにキスするのが嫌だった、なんて言えるわけねーだろ…!)」

いつもと少し違う青峰にみょうじは首を傾げたのだった。


end

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