(可愛い子には旅をさせない)


終礼も終わり、目の前で爆睡している小太郎を叩き起こして教室を出た。
そして、体育館に入ってすぐ、私たちは目を疑った。
今まで見たことのない景色が繰り広げられている。
それは…。

『だから、お願いって言ってるじゃない!』
「そんなこと許可するとでも思ってるのか」
『黙って言ったら怒るじゃない!』
「当然だ」
『だから、こうして前もって行くって言ったのに!』
「それとこれとは別だ」
『別じゃない!』
「とにかく駄目なものは駄目だ」
『今回だけは絶対に譲れない!』

何故か、体育館の中にある倉庫の前で口論をしている我がチームのキャプテン・赤司征十郎と、マネージャーで赤司の彼女でもあるみょうじなまえ。
普段はとにかく息がぴったりで、すごく仲がいい。
…のにも関わらず、今日初めて見た2人の口論。

「大体、どうして一人で行く必要がある」
『征十郎は家の用事があるんでしょ』
「その日に行く必要はあるのか」
『もう約束したもん』
「僕は許さない」
『いやだ』
「言うことが聞けないのか」
『今回だけは聞かない!』
「なまえ」
『どうしてダメなの!?理由は!?』
「一人で行くなど野暮すぎる。家の人が誰かついていくならまだしも」
『…もういい!絶対に行くからね!』
「なまえ!」

そう言って給水器を持って体育館を飛び出して行ってしまったなまえちゃん。
そんななまえちゃんが出て行った扉を見てため息を吐いた征ちゃんに恐る恐る聞いてみた。

「…何があったの?」
「…一人で東京に行くと言い出したんだ」
「東京?」
「次の連休に東京に行くと"奴ら"と約束したらしい」
「それって2週間後の?」
「あぁ」
「奴らって?」

それまで黙って聞いていた小太郎がいきなり跳ねだした。

「わかった!「キセキの世代」だろ!?」
「その通りだ」
「彼らに会うぐらいならいいんじゃないの?」
「その"彼ら"が問題なんだ」
「どうして?」
「お前たちと同じだ。奴らはなまえが可愛くて仕方がない」
「征ちゃんは行かないの?」
「行けないんだ。家の用事でな」
「だったら行かせてあげれば?」
「…少し考えてみる」

そう言ってストレッチをし始めた。
結局、その日の征ちゃんとなまえちゃんはずっと不穏な空気を漂わせていた。

「征ちゃん」
「何だ」
「征ちゃんったらなまえちゃんのことになると余裕がなくなるのね」
「…誰しも自分の好きな人のことになれば余裕もなくなるだろう」
「フフッ。征ちゃんも何だかんだ言って男なのね」
「悪かったな」

彼女のことで悩んでいるなんて。
こう見たら歳相応の青年にしか見えないわ。
いつもはバスケをしている征ちゃんしか見たことなかったから少し新鮮。
翌日。
この前と同じように体育館に入ると、また2人は倉庫の入口の前で話していた。
しかし、昨日のような不穏な空気ではなく、いつも通りの2人に戻っていた。

「あら?」
『あ、レオ姉!』

私を見つけて駆けてきたなまえちゃん。
そんななまえちゃんの頭を一撫でして、疑問に思ったことを聞いてみた。

「征ちゃんと仲直りしたの?」
『うん!征十郎も一緒に東京に行けることになったの!』
「そう。よかったわね!」

そう言って頭を撫でると、嬉しそうに笑った。
本当に征ちゃんってば、なまえちゃんに甘いんだから。

『征十郎のとこに行くね!』
「えぇ」

征ちゃんのところに戻ったなまえちゃんは、征ちゃんのストレッチを手伝い始めた。

「さて、着替えましょう」

平和ねー。
と、幸せそうな2人の顔を見て思ったのだった。


end

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