(忘れられない笑顔)


テスト前。
勉強をするために図書室へと行った。
この時間に、ここを使う人は少なく、一つのテーブルを一人で贅沢に使い、教科書や参考書を広げていく。
こんなに勉強したとしても勝てない人がいる。
その人と、直接かかわったことはないが、いろいろと話は聞く。
一年にして男子バスケ部の主将でいること。
10年に一人の天才が、一度に5人も現れた東京の帝光中学校出身で、そこでも主将を務め天才であること。
あと綺麗な顔立ちをしているらしく、こっそりとファンクラブができているということも。
しばらく勉強をしていると、奥から何か音が聞こえた。

『(誰かいるのかな…?)』

ここにいるのは一人だと思っていたので、不思議に思って奥のほうを覗いてみた。
そこには、机に伏せられた顔。
風に揺らされている真っ赤な髪。

『………』

机には教科書などが広げられている。

『(まさか…。赤司征十郎…?)』

目の前にある状況に少しパニックになる。

『(…こんな所で居眠りする人には見えないのに…)』

そう思いながらも整った顔に目が奪われる。

『(きれい…)』
「…人の寝顔に興味があるのか」
『!』

先程まで閉じられていた瞳は、しっかりと開かれていて、こちらを赤と黄のオッドアイがとらえて逃がさない。

『あの…』
「誰かと思えば、みょうじなまえか…?」
『ど、どうして私の名前…』
「学年2位だろう。君が僕を知っているのと同じだ」
『あ…』

初めて対面したが、少し話しただけで、相手がどれほど頭がいいのかが分かる。
さすが、全国1位の学力の持ち主。

「あぁ。学年じゃなく全国2位かな?」
『そこまで知っているんですね…。それでも全国1位のあなたには敵いませんよ』
「そんなことないよ。僕だって人間だ。だまにはサボりたくもなる」

それを聞いて、先程の居眠りの姿が思い浮かべる。

「君もあるだろう」
『そうですね』

そう言って微笑むと、彼も薄く笑った。
その笑った顔が本当にきれいだった。
初めて赤司くんと会った日から数日。
ずっと、あの時の笑顔が忘れられない。

「なまえ〜!テストの順位でてるよー」
『何番?』
「2位だったよ。やっぱりなまえには敵わないや」

そういう友人は5位。

『でも、上には上がいるよ』

そういってテストの順位を見ると、自分の上には見慣れた名前。

「赤司って男バスの主将の人だよね?」
『うん。この前、図書室で会ったよ』
「うそっ。カッコいいって噂は?」
『本当だったよ。でも…』
「でも?」
『カッコいいっていうよりは美形って感じ?」
「そっち系かぁ」
『おとなしそうな人だったよ。同じ年とは思えない威厳もあったけど』
「さすがキャプテンをするだけはある?」
『うん』
「なるほど…」
『教室行こ』
「そうだね」

そう言って先日会った彼女は目の前を通りすぎて行った。
あの日、彼女に初めて会ってから、彼女の笑顔が忘れられない。
あの時に見せた笑顔は本当にきれいだった。
壁に貼られている順位は、いつもと変わらない。
自分の名前と彼女の名前が並んでいることだけに、少し顔が緩む。

「(たった、これだけで嬉しいと思うとは…)」

この気持ちが何を表しているかは分かっている。
だが、それをどうにかしようとは思わない。
彼女に、もう一度会えた時に、この気持ちを伝えよう。
そう思っていた日から数日。
学級委員である僕は担任に呼び出させ、職員室に向かっていた。
すると、途中で彼女に会った。

『あ。赤司くん』
「!…みょうじさん」
『もしかして学級委員?』
「そうだよ」
『さっき隣のクラスの子に聞いたけど、夏休みの宿題だってさ』
「それは早めにほしいね」
『赤司くんは先にやるタイプ?』
「あぁ」
『やっぱり。そんな感じがするから』
「君は違うのか?」
『私も先にやるタイプ』
「先にやっておけば、あとが楽だろう」
『うん。それに赤司くんは練習もだけど、インターハイもあるでしょ?』
「どうして、それを?」
『こーちゃんから聞いたの』
「……こーちゃん…?」
『えと、葉山小太郎』
「あぁ。知り合いなんだね」
『近所のお兄ちゃんだよ』
「なるほどね」
『こーちゃんから、いつも赤司くんの話を聞くの』
「僕の話?」
『うん。将棋が強いとか、好きな食べ物とか』
「喋りすぎだね」
『でも、いつも楽しみなんだ。赤司くんの話聞くの』
「楽しみ?」
『うん』
「どうして?」
『どうしてって…』

赤司くんの質問にすぐに答えられなかった。
だって、好きだから。
なんて言えない…。

「………」
『えと…』

なかなか答えない私を赤司くんが見つめる。
それだけでも、顔に熱がこもる。

「みょうじ…?」
『…あ、赤司くんって謎に包まれてるか。それが一つずつ分かっていくのが楽しくて…』
「そう。僕も知りたいな」
『え?』
「君のこと」
『わ、私…?』
「うん。小太郎に聞けば知れるかな」
『えっと…』
「それとも教えてくれる?」
『あの…』
「クスッ。冗談だよ」
『へっ…』
「面白いね」
『あ、ありがとう…?』

不思議な人だな。
赤司くんって。

「不思議だね」
『え?』
「こんなにも誰かに興味を持ったのは初めてだよ」
『…私も同じこと考えてた』
「似てるね」
『そうだね』

そう言って、私たちは笑い合った。

「考えが似てるっていうことは、思っていることも似てるのかな」
『?』

先生から、夏休みの課題プリントをもらい運びながら、また教室に向かっていた。

「初めて会ったときから気になってたんだ」
『…私のこと…?』
「そうだよ」
『………』
「図書室で会ったのが忘れられなくてね」
『…うん』
「…気付いたら好きになってた」
『…え?』

隣にいる赤司くんを見ると、真剣な顔をしていた。

『赤司くん…』
「突然こんなことを言われても困るだろうが…」

珍しく歯切れ悪く言う赤司くん。

『そんなことないよ』
「………」
『嬉しい』
「どうして?」
『それは…。私も赤司くんのことが好きだから』

そう言うと、赤司くんはこれでもかと言うぐらい驚いた顔をしていた。
これは貴重だ…。
そんな赤司くんに顔が緩む。

『今日からよろしくお願いします』

そう言うと、赤司くんは嬉しそうに綺麗に笑ったのだった。


end

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