(手放したくないもの)


どうしても手放したくない。
そう思ったのはいつからだっただろう。
初めてあったのは、初めて部活をサボった日。
家から離れたストバスに行ってみると、そこにはデカい男に混じって1人だけ女がいた。
そいつがオトコ共より強いのは一目見ただけでわかった。
かなりの練習を積んできたであろうシュートフォーム。

「(緑間といい勝負じゃねーか)」

このオレでさえそう思うほどだった。
やってみたい。
しばらく見ていると、あることに気づいた。

「(なんであんな楽しそうなんだよ…)」

周りのやつと圧倒的な差があるのは本人もわかっているはずだ。
そいつはそれほどの実力者であろうと、本能的に察知した。

「(いつから、オレは…)」
『そこのおにーさん!』
「あ?」

自分の手を開いて見ていると、前から声がした。
顔をあげると、さきほどまで見ていた人物。

『一緒にやらない?』
「あ?なんでオレが…」
『だってずっと見てたから』
「………」
『帝光中の青峰くんでしょ?何回か地区で見たことある』
「だったらなんだよ」
『男子と女子が一緒にバスケすることって絶対にないからさ!』
「…他を当たれよ」
『じゃあ呼んできてくれるの?見た感じ部活サボってるよね?』
「………」
『ハハッ!図星でしょ?』
「うるせー…」
『いいじゃん!一緒に部活サボった同士でやろう!』
「…は?」

ニッコリと上機嫌なやつからは予想もしなかった言葉が飛んできた。
サボった同士だと…?
じゃあこいつも…。

『ほら、はやくっ!』
「はぁ…」

仕方なしにコートの中に入る。
圧倒的な差を見せつけたらこいつも諦めるだろう。
そんな軽い思いでコートに入ったのが間違いだった。

++++++++++

「…さっさと諦めろよ」
『やだよ!せっかく強い人がいるのにさ!みんなもそう思うでしょー?』

こいつのバスケ仲間らしいオトコ共もこいつの言葉に頷いた。

『強い人相手にしないと意味ないじゃん?まぁ青峰くんからしたらつまらないかもだけど…』
「つまんねーな」
『そこはオブラートに包むとこだよっ!まぁ青峰くんならそのまま言うと思った』

笑いながらボールを渡してくるこいつの姿が数年前の自分と重なる。
オレもこんなふうに笑ってバスケをしていたのだろうか…。
しばらく、こいつらとバスケをしていた。
暗くなり段々と人数が減っていく。
等々、こいつと2人だけになってしまった。

『ごめんね、付き合わせちゃって』
「別に…」
『私は自主練してから帰るから、先に帰っていいよ!』
「………」

そう言って、こいつはゴールに向き合ってひたすらボールを打っては拾う動作を繰り返していた。
一緒にバスケして気づいたことは、こいつは男用のボールでバスケをしていたことだった。
男と女のボールは明らかに大きさや重さが違う。
それをこいつは関係ないと言った感じに普通にバスケをしていた。

「…お前、それワザとか?」
『へ?』
「ボール」
『あぁ…。ワザとだよ。扱いにくいボールを使ってスキルアップをね』

いまこいつ使いにくいっつったか?

「オレにはそう見えなかったけどな」
『んー?』
「普通に使ってんじゃねーか」
『そう?やっぱり違うよ?』

そう言ってカバンの横に置いてあった女子用であろうボールを手にとってリングへと片手で投げた。

『ほらね?』
「はっ、まだまだだな」
『ひどーい!だったら教えてよっ!』
「誰が教えるか、ばーか」
『むーっ!』

こいつといると自然と嫌なことは忘れられた。
その日からオレはよくここにくるようになった。

「お前さ」
『ん?』
「今まで戦ったことのあるやつに幻滅したこととかあるか?」
『それは自分が強くなってからの話?』
「あぁ…」
『あるよ』

手に持っているボールを見つめながら1つ1つ話し始めた。

『ずっと憧れてた人とかにさ、お前に勝てるやつはいないとか?信頼してたチームメイトに勝つための道具としか使われなくなったり…』
「………」
『他の学校のチームには化物呼ばわりされて。努力してないわけないのに天才は楽でいいとか言われて。挙句の果てには監督には点さえ取れたらいいなんて言われてさ』
「………」

思っていた以上に、こいつは今まで何かしらいわれ続けてられていたみたいだ。
オレには同等だろう仲間たちがいる。
が、こいつはずっと1人だったわけだ。

『入部したときからスタメンに入った私が気に喰わなかった先輩たちにはユニフォームを隠され、バッシュを壊され。散々だったよ?』
「思ってた以上だな」
『でしょ?』
「…バスケ辞めようと思わなかったのか」
『辞めたらそいつらの思惑通りでしょ?それじゃあなんの意味なんてない。まぁでもバスケは好きだから辞める気なんてさらさらなかったけど』
「そうか…」
『別にバスケ部にこだわる必要なんてないでしょ?実際部活じゃなくてもこうやってバスケできるわけだし』
「そうだな」
『そのおかげで青峰くんにも会えたしねっ!』
「っ…。お前、よく笑うよな…」
『へ?』

笑ったと思ったら間抜け顔。
そんなこいつを少しでも見たいと毎日のようにここに来るようになった。

「お前といると楽しいわ」
『………』
「なんだよ…。人の顔ジーッと見やがって」
『や、笑ったらかっこいいなって思って』
「なっ?!」
『あははっ!顔真っ赤ー!』
「うっせ!このっ…!」
『やだやだ!こっち来ないでっ!』
「待て、この野郎っ!」
『野郎じゃな、っわぁ!』
「!」

目の前で転けそうになっているやつに手を伸ばす。
危機一髪のところで地面と対面することはなかった。
思いっきり引っ張った反動で腕の中にいるこいつは予想してたよりも小さく細かった。

「ったく…どんくせー」
『な、な、なっ…』
「あ?」
『い、いや。なんでも、ないです』
「なんでもねーって顔じゃねーだろ。お前こそ顔真っ赤だぜ?」
『ば、ばかっ!』

さっきの言葉の訂正。
楽しいじゃなくて面白いの方があってる。
だけど、こいつを誰かに渡したくない。
そう思うほどオレはこいつに惹かれてた。
こいつの持っている光がチカチカと目に映る。

「お前は眩しい」
『ん?』
「でも、ちょうどいい眩しさだ」
『なになに?』

腕の中で無防備に見上げてくる。
そんなやつの前髪をかきあげて自分の額を目の前のやつの額にくっつけた。

「好きだって言ってんだよ」
『…あら、まぁ…』
「なんだそれ」
『だって、おんなじこと思ってたもん』

ニッコリじゃなくテへッと効果音が付きそうな笑顔。
少し照れが混じっている。
不覚にもかわいいと思ってしまった。

「一生離してやんねーから覚悟しとけよ。あと独占欲つえーから」
『それは私もだよ。すぐ妬くし拗ねるからから覚悟しといてね』
「上等だ」

光であるオレが手に入れた光。
絶対に手放したくない。
なまえに会えて本当によかった。
初めて自分のバスケの才能にありがたく思ったときだった。
一番初めに見た時から気があったかもしれないというのは気のせいということにしておこう。


end


(バスケしよっ!)
(しょーがねーな)

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