(小さな決意)


宮地くんと仲直り?をしてから数日。
校内ではある噂が途切れることなく伝言ゲームかのように広がっていった。
それは"3年の宮地清志に彼女ができた"と"みょうじなまえは色んな男をたぶらかしている"という噂だった。
私といえばちょこちょことあった男子バスケ部をしているという女子生徒の嫉妬からなるやつだろうとおもっていて、いつものやつだとさほど気にしていない。
宮地くんはありもしない噂にここ数日間ずっとこめかみに青筋を立てている。

「手ぇ抜いてんじゃねーよ!轢くぞっ!2年もぼさっとしてんじゃねーぞ!」

部活の練習でもこの有様だ。
怒られた方も原因があるのだろうけど、宮地くんの機嫌が悪すぎて彼の沸点が下の方へ下がっているというのも原因の一つだろう。
理不尽だとか八つ当たりだとか思っている人もいるかもしれない。
だから、彼が機嫌悪いうちは怒られた方にフォローの声かけをしていた。

『そんなに気にしなくていいからね。ちょっと最近機嫌悪くって』
「大丈夫です!自分もあんなありもしない噂流されたらイライラしますから」

宮地くんが機嫌悪い理由はみんななんとなくわかっている。
触らぬ神になんとやら、だ。
機嫌の悪い彼にわざわざ火を注ぐことは誰もしないだろう。
彼を除いて。

「高尾っ!!!ふざけてんじゃねーぞっ!!」

あらあら…。
だから言わんこっちゃない。
宮地くんの怒声が体育館に響いてすぐに休憩に入った。
イライラして仕方ない宮地くんは大きな音を立てて体育館を出ていった。

「みょうじ。悪いが宮地を追ってくれないか」
『了解です』

部長で同学年である大坪くんも流石に手を焼いている。
体育館を出ていった宮地くんを追いかける。
これが大変でいつも同じ場所ではなくその時の気分で行くとこを決める宮地くん。
休憩時間に見つけられない時もある。
今日はまだ宮地くんの姿が見えてるからマシな方。
バレているだろうがそろっと彼の後ろをついていく。
今日は近場で体育館裏だ。
日陰にそっと座り両膝に腕を置いて項垂れる。
頭にはタオルをかけていて表情は見えない。
そんな彼の目の前にお尻が地面につかないように腰をおろした。

「…………」
『…………』

何かを話すわけじゃなく、ずっと微動だにしない宮地くんを見つめるだけ。
話しかけても返事がこないのがわかっていたからだ。
そして必ずしばらくすると彼から話始める。

「……イライラする」
『うん』
「オレのことは好きに言えばいい。けどお前が変なこと言われてるのが腹立つ」
『(あれ、そっちなの…?)』

てっきり怒っている理由は自分のことだと思ってたのに。
宮地くんの言葉に目が点になる。
予想してた答えと全く違う答えが返ってきたときって何を言えばいいのかわからなくなるということを初めて知った。

「…自分のことだと思ってなかったろ、お前……」
『てっきり宮地くん自身の噂に腹立ててるのかと思ってた』
「んなわけねーだろ。オレの噂なんて好きに言ってればいい」
『それは私も一緒だよ…?』
「…そういうと思った」
『あんなのただの噂なんだから放っておいたらいいんだよ』
「…わかってる。……でもお前が悪いように言われてるのは黙ってらんねーんだよ…」
『宮地くんのその気持ちだけでも私は十分だよ』

私の言葉を聞いて宮地くんはやっと頭を上げた。
何か言いたげな、少し口を尖がらせているような顔をしていた。
まさに不機嫌、腑に落ちないと言った感じだ。

「……いやだったら突き飛ばせよ」
『へ?』

宮地くんの腕が伸びてきて、私の腕を引っ張った。
一般的な大きさの私でさえ宮地くんからすれば小さい。
そんな私の体は彼の力で引っ張られ簡単に傾いた。
気づけば私の体は宮地くんの腕の中にいた。
簡単に言うと座っている宮地くんに彼の方へ引き寄せられたのだ。
私は膝立ち状態で、お腹に宮地くんの頭頂部があたっている。

『宮地くん…?』
「ワリィ…。汗かいてんのに…。…最悪だよな……」
『そんなことないよ』
「…あのさ……」
『ん?』
「部活全部終わったら…」
『うん』
「お前にいいたいことあんだよ」
『うん?』
「…聞いてくれるか?」

顔を上げて目があった。
いつもは上からある視線が、今だけ下から見上げられていて何だか新鮮だ。
でも、宮地くんの表情は真剣そのもので少し顔が強張っていた。

『今じゃなくて?』
「あぁ」
『いいよ。終わるまで待ってる』
「いいのか…?」
『うん。それまで私は精一杯みんなのサポートするから』
「…ありがとな」
『どういたしまして!そろそろ戻ろう?大坪くんと木村くんが心配してるよ』
「そうだな」

腕を解くと小さな体は離れていって、背中を向けて先に歩き始めた。
そんな小さな背中を後ろから見て、彼女の後ろをついていく。
後ろから抱きしめたくなる衝動を抑えて、心の中で決意した。


((絶対誰にも渡さない))
((全部終わるまで…。じゃあ私もそうするよ))


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