(今すべきこと)


第2Qが終了し、私たち海常は控え室に戻った。

「9点差か…」
「最後のが決まったのはイタかったな」
「あぁあクソオオ。オレが最後リバンとってりゃあ〜〜…!!」
「入っちまったもんにリバウンド、カンケーないだろ」
「黄瀬…。あとどんぐらいかかる?」

笠松先輩は涼太にそう問うた。
内容は間違いなく青峰くんのコピーについてだ。

「………。早くて第3Q後半…。ヘタしたら第4Qまでかかるかもしんないっス。ちょっと表出てきていいスか?」
「…あぁ」

そう言って涼太は控え室を出て行った。

『……つまり第3Qまるまる、ほぼ涼太抜きで凌ぐことになるってことですね…』
「あぁ…」
『桐皇相手に…』
「(できるか…。いや、絶対にやる!…だから、頼むぜ。黄瀬…!!)みょうじ。後半の桐皇の動きはどうくると思う…?」
『きっと涼太が青峰くんのコピーをしようとしていることは、向こうも分かっていると思います。ですが、青峰くんを下げることはまずないと思います。向こうも戦力を落とすわけにはいかないと思いますので…』
「そうか…」
『私、涼太を追いかけてきますね』
「あぁ」

私は先程出て行った涼太を追いかけて行った。
表に出ると言っていたので、とりあえず外に出てみた。

「…さか、観に来…るとは………」
「昨日ま…近くで…」

少し歩いていると、話し声が聞こえてきた。
曲がり角から覗いてみると、そこには涼太と黒子くん。

「…じゃ、ちなみに。青峰っちとオレ…。勝つとしたら、どっちだと思うっスか?」
「…わかりません」
「えー…」
「ただ勝負は諦めなければ何が起こるかわからないし、二人とも諦めることはないと思います。…だから、どちらが勝ってもおかしくないと思います」
『(黒子くん…)』
「…ふーん。じゃあ、せいぜいがんばるっスわ」
「………」

意気込んで黒子くんに背中を見せた涼太だったけど、黒子くんの無言に振り返った。

「なんスか?」
「いえ、てっきり…。「絶対勝つっス」とかいうと思ってました」
「なんスか、それ!?…そりゃもちろん、そのつおりなんスけど…。正直自分でもわかんないス。中学の時は勝つ試合が当たり前だったけど…。勝てるかどうかわからない今の方が気持ちイイんス」
『!』

中学の頃の涼太に欠けていたもの。
今まで勝つことが当たり前だった帝光中学校男子バスケ部。
そんなチームに入った涼太は試合で負けたことがない。
そして、中学最後の全中で見た試合はチームなんて呼べたものじゃなかった。

『クスッ…。…涼太!』
「!」
「なまえっち!?」
『迎えに来たよ。こんにちは、黒子くん』
「こんにちは。お久しぶりですね」
『練習試合以来かな?』
「はい」
『あの日、誠凛に負けて涼太はすごく変わった』
「へ?オレ?」
「そうみたいですね」
『私からお礼を言うね。ありがとう、黒子くん』
「そんな…。お礼を言われるようなことはしてません」
『そんなことないよ。さて…。ずっと話してたい所だけど、私たちはそろそろ行かなくちゃ…』
「そうですね。黄瀬くん。頑張ってください」
「言われなくても全力で行くっス!」

黒子くんは涼太のその言葉に微笑んだ。
そんな黒子くんと別れて私たちは控え室へと戻った。
そして、再びベンチへと足を運んだ。

―第3Q始めます

第3Qが始まった途端、海常チームは前半以上に気合が入っている。
それにあてられた桐皇の桜井くんの後ろから笠松先輩がボールを突いた。
それと同時に涼太が走り出す。
そんな涼太に笠松先輩がボールを投げた。
受け取った涼太はブツブツと何かを呟きながら、一度ボールを床についたと思えば、跳ね返ったボールを再びとり、見事に今吉さんを抜いた。
今吉さんはそんな涼太をファウルをしてでも止めた。

『(今のは、まだ不完全で本物には及ばないけど…。青峰くんの…!)』
「(まだイメージとズレてる。もっと…。もっと速く…)」

それからというもの、青峰くんのコピーを続けていく涼太。
そんな涼太をファウルをしてでも止めてくる桐皇の選手たち。
隣に座っている先輩が声をもらした。

「すげぇ…」
「カンペキじゃね…?」
『いえ、きっとまだです』
「え?」
『涼太はまだ青峰くん相手のときはしていないと思います』
「言われてみれば…」
『つまり、青峰くん以外の人がマークに来たときにしかしていない。それはきっとまだ涼太の中でイメージとズレがあるんだと思います』
「ということは…」
『はい。涼太から青峰くんに1対1を仕掛けたときが、コピーの完成したとき。ということです』

2本目ぼフリースローも決め、試合が動き出したと思ったとき青峰くんのシュートが決まった。
それは、放られただけのボール。

『(何で今のが入るの…!?)』
「タラタラしてんじゃねーよ黄瀬。別に間に合わなきゃそれまでだけだ。テメェの準備が整うまでおとなしく待ってやるほどオレの気は長くねーぞ」

それから試合は動き出した。

『(バスケに一発逆転はない…)』
「(15点差…。そこがデッドラインだ)」

笠松先輩とマッチアップをしている今吉さん。
海常(こちら)の動きはさつきちゃんの情報のおかげで全部読まれている。
だけど、笠松先輩はマークが外れていないまま、強引にボールを放った。

「これだったら読みもクソもねーだろ。ついでに…。オフェンス・リバンドに喰らいつかせたら、早川の右に出る奴はいねんだよ!」
『(決まった…!!12点差…!)』

しかし、点差が詰まったと思ったのも一瞬だった。
再び動き出したボールは桜井くんに渡された。
間一髪でマークしていた森山先輩がシュートをブロックする。

「センパイ…」
「いいからお前は自分の仕事に集中しろよ。そのかわり勝ったら女の子、紹介ヨロシク」
「………」
『(涼太…?)』
「(黒子っちの言ってたこと、最近ちょっとわかったような気がするっス。黒子っちの言ってた「チーム」…。そのために何をすべきか…。そして、オレが今何をすべきか…)じゃあその"オレ"が相手なら、どうなるんスかね?」

ボールを持った涼太の雰囲気がガラッと変わった。
そして、ドリブルをし動き始めた。

『(やっと…!)』
「待ちくだびれたぜ、まったく…。とっとと倒してこい」

そして、ついに涼太が青峰くんのコピーで青峰くんを抜いた。
それにざわめく会場。

『涼太ー!!!』

そして、そのままシュートをする涼太。
それを止めに入る青峰くん。

「調子に乗ってんじゃねェぞ、黄瀬ェ!!」
「ダメーッ!」

さつきちゃんの声がコートに響いた。
と、ほぼ同時にホイッスルが鳴り響く。
しかし、涼太はボールを背に回し、リングへと向かって投げた。
ゆっくりと時間が流れていく。

―ディフェンス黒5番 バスケットカウント ワンスロー!!

シュートをしようとした涼太にぶつかった青峰くん。

『(これで青峰くんはファウル4つ目。もう思い切ったプレイはできないはず…!)』

涼太は難なくフリースローを決めた。
途切れていた試合が動き出す。
青峰くんにパスを出した今吉さんだったが、それを取り損ねた青峰くん。
はじかれたボールをきっちりと取りに行った涼太。
そんな涼太を止めるべく桜井くんが目の前に立ちはだかる。
しかし、そんなことを気にすることなく涼太は軽々と彼を抜いた。
ダンクを決める手前で青峰くんが思いっきり、それを叩いた。
ボールは勢いよく観客の方へと飛んでいく。
どれほどの力が込められていたのかが見てわかる。
涼太もバランスを崩し、片膝をついた。

「4ファウルぐれぇで腰が引けると思われてなんて、なめられたもんだぜ。けどなぁ特に気にくわねぇのがテメェだ黄瀬。いっちょ前に気ィ遣ってんじゃねーよ。そんなヒマがあったら死にもの狂いでかかってきやがれ」
「…いっすね、サスガ。あれで終わりだったら拍子抜けもいいとこっス」
『(舐めてた…。さすがは「キセキの世代」エースの青峰大輝ってとこね。最終Qは間違いなく2人のどつき合いになる…)』

そして、第3Q終了の笛が鳴ったのだった。


back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -