(待ちわびた決戦)


『(とうとう、この日が来た…)』

インターハイ会場。
そして、今日は準々決勝。
海常高校対桐皇学園高校。
つまり…。

『(涼太対青峰くん…)』

控え室は誰も喋る人はいなかった。
みんな無言でストレッチや着替えをしている。
そんな沈黙を破ったのは…。

「あーヤッベー!!テンション上がってき、ッべー!!や(り)ますよオ(レ)っ!!練習の成果を今こそっっ。がんば(り)ますか(ら)っ!!マジでオ(レ)っ!!」
「は?なんて?」
『(フフッ。早川先輩ったら…)』
「だか(ら)、がんば(り)ます。オ(レ)!!」
「あつっくるしーし、早口だし。ラ行言えてねーし。何言ってっかわかんねーよ、バカ!!」

そんなテンションが上がってきている早川先輩を笠松センパイが殴った。
その衝撃で早川先輩は鼻血を出している。

「すんません!でもオ(レ)っ…!」
「オイ森山!なんとかしてくれ。このバカ」

そんな早川先輩をどうにかしようと、森山先輩にヘルプを求める笠松先輩。

「それより笠松…。西側三列目一番はじ…見たか?来てたぜ…」
『?誠凛の誰かですか?』
「違う!…超カワイイ娘が…!!」
『え…?』
「オレは今日あの娘のために戦う…!!」
「ウチのために戦えバカヤロウ!!」
『えぇー!?』

なんというか森山先輩らしいって言うか…。
ていうか、笠松先輩さっきからツッコミばっか…。

「センパイっ!!」
「あぁ!?」
『涼太?』
「ファンの子から、さっき差し入れもらったんスけど食って大丈夫スかね!?」
「食ってできれば死ね!!」
『ったく…。涼太まで…』

なんだか、この後に準々決勝を控えているチームとは思えない…。
もっと普通は集中で静かになるはずなのに…。
まぁ海常らしいって言うか、なんというか。

「どいつもこいつ…。つーか集中させろ!!」
『(ごもっともだ…)』
「オイ、お前ら準備はできてるか。もうすぐ入場だぞ。気合入れていけ」
「(なんで桐皇のイケメン監督に張り合ってんだオッサン!!)」
 
そう言って控え室に入ってきた監督。
いつもの無精髭はなくなっており、スーツにネクタイを締め、ビシッと決められていた。
笠松先輩はもうツッコむ気も失せて、ベンチに座っていた。
森山先輩たちなど、他の部員はプルプルと肩を震わせている。
私も思わず、吹き出しそうになった…。
涼太なんて、口を両手で塞いで声を出さないようにしているが顔に思いっきり出ている。

「ゲームプランはさっきのミーティングで話した通りだ。あとは集中力高めとけよ」
「…黄瀬。5分前になったら呼べ」
「あ、はいっス」

そう言って、笠松先輩は控え室を出て行った。
そんな先輩の背中を見て、涼太は声を漏らした。

「やっぱセンパイでもキンチョ―するんスねぇ…」
「まぁそれだけじゃないがな…。あいつは」
「え?」
『?』
「詳しいことはあいつから聞け」

監督のその言葉に、もう何も聞けなかった。
きっと先輩にも、思うことがあるのだろう。
涼太が、この戦いに強い思い入れをしているように…。

『…涼太』
「はい?」
『もしかしたら、今日の戦い…。涼太は大事な選択に迫られるかもしれない…』
「……そっスね」

憧れである青峰くんとの対決。
でも、憧れてしまえば彼を越すことはできない。
それを涼太は理解しているのだろうか…。
そして、憧れを捨てなければならなくなったとき…。
涼太はその長年の憧れを捨てることができるのだろうか…。

『………』
「…心配しすぎっスよ」
『涼太…』
「今日の目標は勝つこと!そのためなら何でもするっス」
『…無茶だけはしないでね』
「はいっス!」

見守ろう…。
ずっと今まで涼太のそばにいた幼なじみとして。
そして、部活仲間として…。
もうすぐ、決戦の幕が上がる。
その時になるまで、私は控え室でずっと待ち続けた。
ふと視界に入った、控え室を出ていく涼太。
そんな涼太が気になって、私も控え室を出た。
涼太が向かった先には、廊下に置かれたベンチに座っている笠松先輩。
インターハイになってから、最近ずっとあの調子だ。

「センパイ。あと5分っス」
「…オウ」
「インターハイに来てからよくそうしてるっスね」
「……ウチは去年のインターハイ、優勝すら望める過去最強のメンバーだったが、結果は知ってるか?」
「確か…。初戦敗退っスか?」
「ありゃ、オレのせいだ」
『(え…?)』
「一点差の土壇場でパスミスして逆転を許した。先輩達の涙。OBからの非難。オレは辞めようとまで思った。けど、監督はオレをキャプテンに選んで言った」

―だからお前がやれ。

「そん時にオレは決めた。償えるとは思ってねぇ。救われるつもりもねぇ。それでもインターハイで優勝する。それがオレのけじめでキャプテンとしての存在意義だ」
『(笠松先輩…)』

インターハイへの笠松先輩の思い。
そんな事情があったなんて…。

「ふーん。まぁオレは青峰っちに初勝利が目標ってぐらいっス」
「あっそ」
「まぁ…。死んでも勝つっスけど」
「あっそ」

そんな涼太の言葉に笠松先輩は口の端を上げた。
思わず私も微笑んでしまった。

「なまえっち?」
『…遅かったから迎えに来ました』
「あぁ悪いな。行くぞ」
「はいっス!」
『はい!』

入場すると、客席からの歓声。
やはり準々決勝まで行くと、注目度が上がるなぁ…。

『ん?あれは、誠凛…?』

ふと視線を上げると、そこには黒子くんと火神の姿。
試合を見に来たんだろうか…。
コートに目をやると、涼太と青峰くんが話している。

「負けねっスよ、青峰っち」
「あん?ずいぶん威勢いいじゃねェか、黄瀬」
『(涼太…。青峰くん…)』
「けど残念だがそりゃムリだ。そもそも今まで一度でもオレに勝ったことがあったかよ?」
「今日勝つっス。なんか負けたくなくなっちゃったんスよ。ムショーに」
「…ハッ。やれるもんならやってみろ」
「やってやるっスよ。それにオレはなまえっちの分の思いも背負ってるんで」
「…マネージャーか。まぁその思いに潰されねーようにな」
「当然っスよ」

とうとうこの時が来た。
私は一度目を閉じてから、しばらくそのままいた。

『(信じてる。…涼太を。…海常のみんなを!)』

そして目を開いた。
コートには整列した選手たち。

「(いつかじゃない…。今勝つんだ…!)」

私も涼太も、強い光を瞳にうつして、敵を見据えたのだった。


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