公序良俗に反しない歌はあまりに退屈で
きみのくれたチョコレートは道徳という名前だった
一定の距離の向こう側で確固として笑っているその姿は
手を伸ばしたらば切断される細々とした電子の回線の上で
1ビットの集合体が夥しく創り上げる理想のようだ
どうしても床を蹴って走り出したくなったのに
開かない窓すら開けようとする努力を自虐して
見上げたかった絵に描いたような夕暮れを
コンクリートの乾燥した壁が阻む


床にこぼれ落ちたジュースや甘いお菓子が
何かの手違いで奇跡を起こす
たったそれだけの期待を骨ばかりの胸に抱いて
皺も伸びていく清潔な白い光景をじっと眺めている
汚れたガラスの向こうで眠るきみは
まるで軽く触れただけで薄れ行く意識の崖で
そこにいることを疑ったら、そのまま消えてしまうくらいの
あまりに不確かな存在だったのに




幾重にも折り重なる本棚の隙間で
きみにおしえた有益な言葉のすべては
本当は嘘だったよ
ぜんぶ

でも怒らないで、
ぼくだってそのことに
つい最近気づいてしまったんだから




おもちゃの鍵を壊して
宝箱を開けられなくなってしまうような
とても簡単な言葉で片付けられてしまう衝動を
もっとずっと覚えておくために
なんにも興味がないふりで、ただ本を読んだ
想像した世界はこれじゃなかったけれど
そのために手を離すのはあまりに惜しい


たったそれだけの理由を
まだ大事そうに手の中に握りしめている
憂鬱そうなきみとぼくが鏡に写っているのを
笑ってみてもいいような気がしたんだ
そのうちほんとうに
消えてしまう前に



空を走る電車の影がぼくの足元を塗り替えるので
そのまま行き先を変えることにする
悲しくも切なくもないただの過程の中で
自分の呼吸の意味を考えてひとりで笑った



【空想都市と青い春】
(111101)



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