夜明けの鐘が鳴らないという理由で目を覚ましたきみは
本当にどこまでも捻れているじゃないか
ちょっとした知的好奇心を餌にもっと大事な現在を釣る
とてもしたたかなやりかたで


泣き叫ぶ生まれたばかりのきみが享受したあの呪いを
今こそもっと愛さなくてはならない
誰よりも優しい声によってきみははっきりと見る
死を


蓋の開いたままのマニキュア
埃を被った三面鏡
歯の折れた櫛
干からびた香水と
あとは
ええと


ぼくが誰でもいいんだ、本当は
きみが誰でもいいんだ、本当は
きみが鏡を覗き込んだとき、そこにうつる誰かの名前を
「誰か」でかたづけてしまわない限りは


計算しつくされた角度
調整しつくされた運命
用意しつくされた言葉
非難しつくされた手口
悔恨しつくされた結果
予想しつくされた未来


きみが「誰か」になれたあの夜
ぼくにはもう帰る場所はなかった
骨まで縫い合わせる細くて強い糸で
魂まで貫く繊細で太い針で

きみの翼が生えた肩甲骨を
きみの言う「誰か」じゃない「誰か」が撫でる

ふたりめの「誰か」の名前をぼくは知らない
きっとずっと永遠に知らない
知らない


狂った色彩感覚を並び替えて、きみは外へ出る
ぼくは時計の針が燃えるのを眺めてる
こどもを喰らう狼なんていないことが
三年前に証明されたこの町で
きみはきっと夜更けまで踊る


きみはぼくの「誰か」になり
ぼくはきみの「誰か」になる
鏡なんてなくても
ふれてさわれるだけの確かさで



【トロイメレクイエム】
(110531)



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