「始めまして、私は奥野沙織」そう言って私は手元にある研究所の身分証を見せた。私は冴羽遼を観察した。シティ―ハンター、年齢不詳で裏世界一を誇るスナイパー。思っていた人物とは少し違った。もっと人間離れしたような空気を持つ人かと思っていたが、意外に人間らしいというか―。だが確かに「普通」とは言いがたい瞳を持っていると思った。そしてそれ以上に、納得した。頭脳の基礎に選ばれた槇村香。彼女が、最後まで愛した人。

既に野上刑事には事の詳細は伝えてあるので、頭脳を狙った組織、そして「Heart」の存在。それらを説明した時、彼は率直に私の瞳を見て答えた。「頭脳は消滅し、俺が最後に会った時も自ら消えると言っていた」あいつは―と続けると思った所で言葉を止めた。少し顔を斜めに考えるように目を伏せた。正直言って、これはどう考えても酷なことだろう。死んだパートナーの亡霊の存在を確証づけるかの話なんて、趣味の良いもんじゃない。それでも、解決しなくてはならない。
彼はすっと私に視線を戻して答えた「ない。『Heart』は存在しない」するはずがないと言葉を強めた。何か核心があるのか、それとも信じたくないのか。
私はパソコンのフォルダを起動させパスを入力した。論より証拠だ。話すより、直接見てもらった方が早い。「私達研究所も理屈で言えば『Heart』はないと考えています。あれは確かに自ら消滅し、その欠片もありませんでした。ですが、当時頭脳が守った情報と今回の事が重なってしまった。ありえるはずがありません。前の基礎が完全にないのに、今回も同じ行動をとったんです。しかも同じ「モノ」を守る為に」
かたかたとキーを打ち続けながら言葉を止めた、そしてピっと現れた画面を彼に見せた。
それを見た冴羽遼は目を細めた。頭脳が槇村香が守ったもの。唯一のたったひとつの情報。

「わかりますか?盗まれたプログラム…『Heart』は、あなたの情報を守ったんです。」


冴子は息をのんだ。その画面に映し出されたものと以前冴子が経験したあの光景が一致した。ぞわりと体の芯が震えた。頭脳はあの時、「遼を守って」と言った。それと引き換えに消滅した。そして今、それがもう一度繰り返されるのかと考えた。香の死を悼んだのは遼だ。それがもう一度掘り起こされるような感覚。(何故、またこんな…)普段なら思いもしない情けない心の声が胸の中で響いた。そして、黙っていた遼が言葉を紡いだ。瞳は黒い光が宿るように沙織を射抜いている。その表情はシティ―ハンターと呼ばれるのに相応しい表情だった。「―で、俺にどうしろって?」「ネットの仮想空間で探して欲しいんです。地上は冴子さん達にまかせます。

冴羽さん自身が中に入るんです。意識を情報化させてプログラムに送り込みます。ここからは、とても繊細な作業です。以前もこのプログラムを使いましたよね。確か、あの事件後にパスワードを聞きだすために。あの時、冴羽さんは何も問題なく潜り込めたので、あの時と同じ要領で送り込みます。確立的に言えば、0に等しい。でもガードしていたプログラムを盗られ、相手の組織が言う「Heart」が向こうに本当に存在するのならば、急がないといけません。冴羽さん。あなたには酷なことになると思いますが――お願いです。力を貸してください。

Heartを、槇村香を、探してください。





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