依頼を受けたとき、遼は依頼人の女性を見るなり嬉しそうに飛びついた。相変わらずのもっこりすけべにハンマーを手に取った。けれど私は何故かそれを振るう事は出来なかった。
ただその光景を呆然と眺めながら立ちつくすのだ。

ねえ、遼。私が見える?
あなたの心の中に私はいる?

映像の中のわたしはそれを聞きたかっただけ。だって私ばかりが欲張りみたいだもの。
香は先ほど見た夢なのか思い出なのかもうわからない映像を何度も頭の中で再生しながら窓を眺めていた。そんな香の腕や手はどことなく細く白い。たった半年ほどですっかりと変わってしまった。ガラスに映る私はお世辞にも健康とは言えない。そこで扉をノックする音が響いて香は「はい、どうぞ」とその主を部屋へ入るように促した。

「槇村香さんですね?」
「ええ」
「本当によろしいのですか?」
「ええ。今すぐに」

香はそう言ってベッドから立ち上がった。一つ一つの動作が緩やかに見えて、上品にも見えた。遼は今、事件で冴子さんと新宿を離れている。それはチャンスだった。
香は頷き、身支度を整えると男にある場所へ案内された。それが、槇村香が初めて研究所へ行った最初の日であった。

silent





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