全ては必然であり、運命だ。遠くにいるピエロがそう叫んでいる。白い顔にペイントされたハートが頬の上でその唇を吊り上げる事に引きつった。暗闇の中に浮かび上がるようなその存在は奇妙で心地が良いものではなかった。

そのピエロは遼の前にぱっと現れると、けらけらと笑っている。薄汚れた衣装、時々日本語ではない言葉を発している。だが、遼はそんな道化の存在よりもその向こうに浮かび上がるものに釘付けだった。白く滑らかな肌。香は白い衣に包まれ、少し乱れたようにガラスのケースの中で縦に閉じ込められている。重力はないのか、まるでベッドの上で寝ているかのように瞳は閉じられ、茶色の髪が乱れている。それはまるで人形のようだが、それもある意味正解なのかもしれない。彼女はぴったりと唇を閉ざし、息もしていないのだから。
魂の宿らない蝋のような体は、まるで最高級のシルクのように今すぐかき抱いて、そのまま自身の体を埋もれさせたいと思うほどの、美しさだった。
だが、それを遮るようにピエロはトランプを巧みに操りながら、一枚のカードを遼に見えるように翳した。それは数字ではなく、タロットのようだ。絵が描かれてある。そこには鎌を持った死神−…ぼろぼろの黒衣に細く骨だけのような手が伸びて大きな鎌を持っている。顔は仮面をつけ、その異様な雰囲気からは人間とは思えない存在に見えた。

―これこそ運命!待ちわびた、死の時!
―生の脱却!魂の解放!
―美しき賛歌!おお!香は死んだ!

――全ては必然であり、運命だ!


遼はその光景を睨みつけた。香の死が必然?運命?

「生憎、俺はその運命に従うつもりはない」
遼はようやく腕を上げた。銃の引き金をその台詞と共に引いた。ピエロの米神を弾がつらぬく。その時、ピエロの顔はぼこぼこと変貌させ、スローモーションのように世界はゆっくりとなった。そして、一瞬にして顔を変えた。それは遼自身がよく知る人物だった。はっと息を詰まらせ、目を見開いた遼にピエロはこう囁いた。



「…だが、香を引きずり込んだのはお前自身だ」



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