あんこは機嫌よく、浮いている遼に質問攻めをしている。どうやら、あんこには遼が見えているようで…子どもだから敏感なのだろうか?どちらにせよ、泣いて嫌がられるよりはずっといい。
「りょうは、何を食べるのだ」「いや、食べるって…一応死んでるから食べな「まことか!お腹はすかんのか!」「いや、空腹感が「くうふくかん?何じゃそれは?きのみか!」遼の台詞を覆うようにあんこは質問攻めだ。呆れた遼が足を組みながら、「木の実?おい、俺のこと獣か何かと勘違いしてんのか」ときらきら何やら尊敬の眼差しを向けるあんこに眉を顰めた。
香は噛み合わない二人の会話に含み笑いをしながら「獣でもいいくらいよ。ほら、遼は―そうね、狼とか?」もちろん、かっこいいと言う意味ではない。発情期を控えた変態狼男という意味だ。香がそう言うと、あんこは「そうか。りょうは「へんたい」なのか!」と復唱した。多分意味はわかっていないのだろう。りょうはへんたいと何度も歌うあんこに遼はひくりと口元を吊り上げ、「おい、子どもに変なこと教えるな!」と憤慨したように抗議の声を上げた。「普段からデリカシーがないから、こうなるの」香はそう言って、あんこと顔を合わせて「ねー」と可愛らしく二人で頷いた。意味をわかっていないあんこだが、香の笑みに同調して、機嫌よさそうに笑っている。
「かおり、かおり、りょうは『でりかしー』のない『へんたい』なのだ!」あんこはきめ台詞のようにかっこよく叫んだ。今度こそ、香は大笑いをしてしまった。


あんこが教えてくれる道は、香が通ったことのない所だった。いよいよ不安になってきた。裏山はある場所から土地の所有者が変わるので、入ってはいけないと言われていたこともあって、あまり詳しくない。「お前、本当に家があるのか」遼が疑いの視線をあんこに送ると、あんこはほっぺを膨らまし憤慨したようで「あんこは嘘をつかぬ!」と叫んだ。平らな道で辺りは木々に囲まれている。そこで、あんこは道が続いてない方の木々の奥を指した。「あっちだ」香は思わず足を止めて、うーんと粘った。どう見ても、道ではない。舗装されていないし、変な所いって迷子になったらそれはそれで、危ない。
「かおり!あっちあっち!」しきりに香の服をひっぱるあんこ。その時、「あ、じいじだ!」

あんこの高い声が響いた。え、香は思わずその方向を見て足を進めた。その時、うっすらと靄のようは霧が流れた。さっきまで汗をかいていたはずなのに、ひんやりとして、雰囲気が変わった。がさがさと草を踏んだ先に、石畳で敷き詰められた地面が顔を出した。香はそれにつられるように先を見た。木々の間から向こうに人がいる。
「じいじ!」その叫び声と共に、靄の中から徐々に現れた人は、腰を曲げ、優しそうに皺刻んだお爺さんだった。神職の方だろうか、男性が神社で身につける朱とは異なった袴。それは香自身よく見慣れた姿だ。母方の実家は神社で毎年大型の休みになれば兄貴と帰って、伯父さんが袴姿で出迎えてくれる。その時ばかりは香も巫女装束に着替え、お守りの授与など、手伝いもする。
「じーじ!」足をばたつかせるあんこに、香はゆっくりと地面に下ろして、見えてきたあんこの祖母に挨拶をした。「あのう「わかっておる。孫を連れてきてくれたのだろう?すまなんだ。杏(あんず)は探検が好きでな。よく迷子になってしまうんだ。」ありがとう。深みのある声はとても胸に響いた。あんこは軽い足取りで祖父の袴までくると引っ張っては嬉しそうに抱きついている。
「杏(あんず)、お礼を言いなさい」お爺さんはあんこの背中をぽんと押して静かに言った。とても響きのある声は何故か香の心に染みた。(なんて深みのある声なんだろうか)
あんこは促されるように香の方を見て嬉しそうに「ありがとう、かおり」と言った。
「ほんとうにありがとう、お譲さん。心から礼を言うよ」あんこのお爺さんはそう言って頭を下げた。たまたま通りがかって連れて来ただけの香は「そんな、」とばかりに手を振って「いいんです。気にしないでください」と答えた。ただ、あんこが無事に家に帰れたことだけで充分だ。
すると「せっかくだから、お茶でも飲んでいきなさい。孫を連れてきてくれたお礼をしたい」そう言ってお爺さんは微笑んだ。すると徐々に周りにに広がっていた白い靄はうっすらと消えて、その変貌を露和にした。鳥居とお社。やはり、ここは神社だったようだ。
にしても、「こんな所があったんだ…」香は神聖な空気が立ちこむ空気を吸いながら、「あんこの家は神社だったのね」と溢した。遼はきょろきょろして周りの様子を伺っている。「辺鄙な所にあるもんだな」(りょう、)と、どこか疑わしげにしている遼を一瞬一喝していると、あんこが香の元へぱたぱたと駆け寄って手を引っ張ってきた。

「じいじがだんごをくれるぞ」ほら、と引っ張ってくるあんこの力は思ったよりも強く、香はそのままつられて神社の鳥居をくぐっていった。「りょうもだ!」あんこはすかさず、浮いていた遼に手を伸ばした。そして、ぐいっと遼のズボンの裾を引っ張った。
「!?」遼はその重力に釣られ、体を地面に着地させ、引っ張るあんこの手を見た。
「おい、おま「りょうもゆくぞ」あんこはにっこり笑うと香と繋いでいた手とは反対の手を遼の手にのせた。まるで夫婦の間に挟まれた子どものように手を繋いでいる。
遼と香は顔を合わせた。そして、ご機嫌よく見上げるあんこに香はおそるおそる訪ねた。「あんこちゃん、あなた…遼をさわれるの」「うむ」あんこは当たり前のように頷いた。






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