「意味がわからない」香はそう叫ぶと、手元に置いていた問題集に顔を突っ伏した。「つまり馬鹿だからだろう」遼そう言って香の横へすい〜とついた。香は右手でそれを振り払うように手を振って空気を散らすようにしたが、効くはずもない。
「そうね。のんきにプカプカ浮いてるスケベゴーストが羨ましいわ」そう言って目を細めて顔を上げれば、遼は憤慨したように腕を組んで、「それは挑戦状として受け取るぜ」と机を挟んだ向こうで座った。
そして散らばった問題集を指差して、「どれだ。どの問題がわからないんだ」と聞いてきた。うな垂れていた香はシャーペンでその問題をとんとんと叩けば遼は覗き込むようにしてこう言った。
「公式が違う」遼はそう言って香が書いた公式を指差した。「は?」香は思わず背筋を伸ばして、じっくりとその指差された問題を見た。「え?でもこれは」「引っ掛けだろ。おい、ちゃんとわかってんのか」じろっと遼はこっちを見て組んでいた腕を解いて香が解いている問題をなぞるように指さして指摘した。
「それと、コレ。きちんと覚えてないだろう。今見て出来てもテストじゃ意味がない。ほら、まず此処とコレは覚えろ」「え、うん」香は無意識に頷き、シャーペンの頭をカチカチと鳴らして芯を出した。転がっていた消しゴムで解いていた問題の一部を消して遼の言ったとおりに公式を当てはめて解いていった。

「ね、遼。これは?」香はいつの間にかのめり込んで問題集を書き込んでいった。ノートを広げて、気付けばあれから3時間経過していた。香は一頻り勉強出来たと満足して伸びをした。「でも、以外。頭良いのね」そう言えば遼はふふんと満更でもない顔をしている。「でも変よ。記憶ないのに計算できるなんて、都合良すぎる。…しかも色魔のように煩悩がひどいわ」「喧嘩売ってんのか」

「あーにしても暑い」香はそう言って転がってる下敷きを取り出し顔を仰いだ。「クーラーつけろよ」「電気代もったいない」「扇風機は?」「壊れた」そう言って唇を尖らす香に遼は「兄貴に言えよ」と最もな台詞を言った。そんなのはわかっているけど、今は研究の論文やらが忙しく部屋に閉じこもっている。「また明日言う」今、忙しそうだし。香はそう答えると「あ、遼」こっちきて、と香は体を起こして思い出した。遼と過ごしてわかった事。彼はなんだかんだやっぱり幽霊なので近くに寄ればひんやりと寒いのだ。この部屋も他の部屋よりか幾分か涼しい。だけど、この暑い夏の温度は負けてしまう。ならばもっと近くに置いとけば涼しくなるかもしれない。特に深い意味もないし、「遼って傍にいると寒いの。だからこっち来て」と言った。
「俺は冷房じゃない」遼がむすっとしたようにぷかぷか浮いてまた腕を組んだ。「さっきはこっちくんなって言った癖に。なんだよお前」「お風呂入る時は当たり前でしょ!」勉強する前に風呂に入った時のことを言っているのだろう。まったくそれもこれも状況が違う。
「あーお前がもっこり美女だったらすぐにでも行きたいが」手で胸の形をジェスチャーしてきた遼を見て、香はうげぇと顔を歪めた。
「もっこりって…本当に煩悩が酷いのね。…まるで空飛ぶ変態だわ」呆れたように言って首を振れば「ああん?教えてやってその態度はなんだよ。この痴女」「ちち、ちちち痴女!?」香は霊気を右手に放出してハンマーを握った。「げっ」と慌てた遼が部屋の外へとすり抜けて行く。「こら!待て!」「このっ暴力女!」


その後、兄貴が部屋から出て来て一人暴れまわる妹を見て一喝した。
「香!夢遊病を治せと言っただろう!」「……!」兄さんは心配だ、と説教される香を横目に遼は同情の視線を送った。「……不憫」





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