今回の謎解きもなんだかんだと順調に進み、今は財宝をふんだくって日本に帰る前に鑑定士に見てもらっていた。と言っても現役の大学教授なのだが。


「oh…wonderful(ほう、すばらしい)」
爺さんは宝石を見つめ光に照らしながら書物と照らし合わせている。遺跡の調査班だとかで変装していけば案外侵入は簡単だった。

槇村の下準備は功を奏し、あっという間に財宝にありつけた。世紀の発見に少しの興味もあるが、遺跡とは別で大昔に盗賊が隠した財宝だとわかってしまった今、特に興味はなくなっていた。元々宝石や金を目的にこういう仕事をするようになったのではない。真っ暗でドロドロと歴史や凶器に踊らされた宝を奪い取るのが面白いだけだ。独り占めは良くない。
うんうん、と好き勝手な解釈で頷きながら、ちらりと爺さんを見れば、さっそくとばかりに価値を計算している。
「Does it take time?(時間かかる?)」遼はそう聞けば、爺さんは「yes (ふむ)」とばかりに集中している。
それを見た遼は、「It has understood(わかったよ)」と手をひらひらさせながら部屋を出た。



外の空気にあたれば気持ちが良いが、夜のせいか酒くさい。暗い路地には娼婦たちが立っている。どれも美人で目もいくが出来ればもっと美人の女がいい。遼は上着に手を突っ込みながら道を歩いていると、「Ryo〜〜!」二人組みの美女、もとい知り合いが、きらきらのドレスを輝かせながら遼の両腕へと手を入れてきた。
金髪のドレイシアと赤毛のゾフィアナ、二人ともどちらにもまけず劣らずの美人だ。
豊満な胸はドレスに収まりきらないように谷間を作り、誘惑の香水が頭をくらくらさせる。
「When did you come?(いつ来たのよ〜)」
ドレイシアはそう言うと遼の腕に胸をくっつけて擦り寄った。途端に情けなくも涎を垂らすように遼の表情はふにゃふにゃになった。それに対抗心を抱いたゾフィアナは唇を遼の耳へと寄せて、カプリと耳たぶを噛んだ。ぞくぞくとする感覚に遼は「はいはい♪ボキちゃんの為に喧嘩しないの〜」と思わず日本語で二人の腰を掬うようにぐっと握った。
今夜のお相手はどっちかな〜♪なんてスケベな事を考えていた遼。
するとゾフィアナは思い出したように遼の耳に、こそこそと言葉を紡いだ。
「ん、」遼はそれを聞くとthank youとゾフィアナの頬にキスをしてくるりと二人から離れた。
「あん!」ドレイシアは、(もう!また逃げるのね!)憤慨したように形の良い唇を曲げながら、夜の街へと消えて行こうとする遼に叫んだ。相変わらず逃げ足は本当に上手い。


遼は二人の美女に手を振ってその場を離れた。そしてゾフィアナが告げてくれたので、爺さんの部屋に帰る前に、もう一つの店へと寄った。裏路地で人気もない、ぼろい店。見た目はどうって事もないが、中に入ればたちまち中世のヨーロッパを思わせる骨董品や内装に囲まれる。遼はいくつもある本棚のとある本を動かし、隠し部屋へと続く階段を下りた。下へ行けば行くほど明かりが強くなる。遼は足を進め、古びた木の扉を開けた。
そこには壁一面、棚や家具、たくさんの装飾品が飾られ作られていた。その真ん中で工具や機械に埋もれるように一人の男が作業をしていた。遼はそれを確認するなり唇をあげた。
「情報が早いな」作業をしていた男はそこから目を離さずも遼の存在に気づき、言葉を零した。
「まあな。俺の情報屋はいつでもどこにでも居るんだよ」
さっき会ってきた美女二人組みを思い出しながら言えば、男、アーサーはやっと目をこちらに向けて鼻で笑った。

「ふん、スケベ野郎が」
皮肉ぶった言い方だが、これもアーサー流の挨拶だ。そして手元からと、部屋の隅に置かれた幾つかの装飾品を遼に見せた。
どれも美しくも上品だ。このアーサーは代々の装飾品職人だ。日本人の混血で腕は確かであり、頭も良い。時々、見つけた宝石や金にシルバーに家具やらはこのアーサーに預けて、より良いモノに作り変えて貰う。
今回も頼んでいたモノがあって、「完成した」という知らせを聞いたので此処へ来たのだ。
さすがだな、遼は足を折ってそこらへんにも転がる装飾品に目を見張った。そして袋につめていった。
「槇村が怒っていたぞ」アーサーがそう言うと、
「あいつはいつも怒ってるよ」遼はそう流して、宝石を摘みながらニヤリとこちらを見た。
遼はジャケットに無造作に突っ込んでいた札束を取り出して机の上に置いた。そしてそこに置いてあった、ある銀色の指輪に目を落とした。シンプルで美しくも光る指輪。よく見てもわかる細工の模様が見事だ。細いふちにも細かい仕事に「ほう」と感嘆の声を上げた。
するとアーサーは珍しそうに口笛を鳴らし、「ああ、宝石はついてないただの指輪だ。
銀に装飾をつけるだけが俺の仕事じゃないぜ。そのままでも良いフォルムだろう?シンプルだが素材も職人も最高級だ」得意気に笑うと、遼は摘んだその指輪を天井の光へと透かすように見た。

「いわくつきの指輪か?」
そう尋ねるとアーサーは首を振って、
「いんや」と零し、「いい銀があってな。一から全部作ったよ」
と遼を見た。

「いるか?」そうアーサーが聞くと、

「あ―」遼は曖昧そうに言って、結局、「貰っとく」とまたポケットから札束を取り出し机に置いた。
アーサーは何かわかったように顔をニヤつかせながら「なんだったら対になる大きめの指輪をつくっとくよ」
遼は唇を引いて、詰めた装飾品たちを持ち上げて「また、そん時にな」とその部屋を出た。ジャケットから携帯を出して海坊主を呼んだ。次は中国で美術品を盗みに行こう。
日本に行くのはその後で、槇村にも連絡して合流せにゃあ、ならんな。こつんと靴が石畳の床を蹴った。




「香、」
学校の休み時間、友人が香の制服からはみ出て首元にぶら下がる指輪を見た。とっても綺麗ね。誰からもらったの。12歳のおませな年頃である女子達はこういう話題が何かと好きだ。香は慌てて「別に、知り合いに貰ったの!」両手を振りながら首を振った。
まだまだ若く、幼い香。年頃でありながらもその手の話題は苦手だ。確かにくれたのは遼だけど。宝石も何もついたもんじゃない。しかも安もんだって、くれたもの。今頃またどこかのゴシップ紙で登場しているだろう。彼はなんていったって世界一の大泥棒なのだから。

(コレだって盗んできたやつかも知れないし、大事にしてるつもりはないけど、ね
まあ、なんとなくよ…)無意識下で動く感情の名を彼女はまだ知らない。もちろん、既に興味を持ってしまっている友人達は、この後すぐに香を質問攻めにするに違いない。




(レディーナイト)
彼女の未来はすでに用意されている







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