妙に広い部屋を駆け抜け、私は暖炉のある部屋へと駆け込んだ。
「りょう!」
そう言って叫べはいつのもの姿がそこにいた。もちろん兄貴も。突然入ってきた私にアニキはこめかみを押さえながら「香、今は夜中だぞ」と少し呆れた感を含んでいる。
まあ、確かに言われるのは仕方がない。なぜなら今は夜中の3時。
まだ7才の私はもちろん寝巻きのパジャマ姿。しかも柄はうすピンクで白の刺繍とレースがくっついている。
こんな女の子らしいのを着るのは嫌だったけど、アニキが「着なさい」とばかりに何度も言ってくるものだからしょうがなく着ている。
でも本当は朝の8時からやっているヒーローのレンジャー達が、かっこよくプリントされている水色のパジャマがよかった。
でも今はそんなことより、久しぶり帰ってきた遼のことだ。

相変わらず、今日も特大のお宝を持って帰ってきている。
香は目を輝かせながら「うわー!」と部屋の絨毯の真ん中にドン!と置かれた箱に感嘆の声を上げた。
見るからに古そうで、大きさは遼の身長にもある特大サイズ。遼の手土産はいつもすごいものばかり。
槇村はなんだかんだ思いつつも微笑ましそうに見えている。
時々妹のためにわざわざ盗ってきてくれるので、本人である香はその帰りを楽しみにしている。
(もちろん。それだけではないだろうが)
香はぴょんぴょん跳ねながら、槇村の横を通りすぎ、遼へ飛びついた。
何かと遼と(一方的に)喧嘩をする香だが、遼が帰ってきた時は、はしゃいで喜んだ。



「今回のお宝はエジプト!海坊主を説得するのに大変だったんだぜ。槇村が行かないんだったら俺も行かん!と言い出しやがるし」
遼はくくく、と笑いながら
(あいつ、あっちの気があるんじゃねーの)
と言いながら飛びついて来た香の頭をくしゃくしゃと撫でた。

槇村は半眼で(お前が無茶ばっか言うからだろう)と心の中で思ったが言わないでおいた。
今回参加しなかった理由は、香が最近怖い夢を見るとかで一緒に寝てやる為だった。
そんな理由かと思われるかもしれないが、遼は、なら仕方がないかと了承してくれた。
だが、そんなことに恐怖していた香はもうどこにもいず、すっかり遼へ笑みを浮かべている。
「で、中には何が入ってるの!」
香は興味津々の様子に遼はにやりと笑みを浮かべて、「香への土産さ。開けてみろ」
と香を巨大な箱の前へたもした。
そしてその小さな手が箱の隙間に入り持ち上げる。遼はニタニタ笑いながら後ろから手伝う。
きらきら目を輝かしていた香はその中を覗き込んだ。


「ひぃいいいい!」
途端に香は声を上げてのけぞった。
そして、うわーんとびーびー泣きながら遼へ抱きついた。

箱の中にはすっかり本物のミイラが収められていた。ただでさえ臆病な香は目の前の骸骨に打ちのめされた。
その予想していた通りの展開に遼は楽しそうに声を上げて笑った。
最初こそ遼に飛びついた香だが、すぐに顔を赤くさせ「りょおッ!」と充血させた目でギロリと睨んだ。
小さな手で遼のシャツをひっぱり憤慨したようにお腹の辺りを殴っている。
「こんなのいらない!」
小さいなりだが、力はある。
いつのまにミニハンマーを取り出し、ぱこんぱこんと叩いている。

遼は飄々として、ミイラを弄くり身に着けている装飾品を取り出したり、
頭蓋骨を持ったりして
「おまあの彼氏にどう?」
などと、まだ7才の香に言いながらその反応を楽しんでいる。

だが、いつのまにか、槇村の顔色がいっきに青ざめていく。よく考えれば、遼がわざわざ此処へ来る意味もない。年端もいかない妹をやたら虐めては可愛がる。(まさかな…)嫌な予感に眩暈がした。いや、いくらなんでもありえない。もっこり美女だとかで遊びまくっている遼にかぎってそんなはずはない。

そう…そんなはず…



もちろん、槇村の予想は大当たりする。
香は年を重ねるごとに遼の元へ行きたがり、遼もなんだかんだ言ってはちょっかいを出し、いつしか、遼は槇村の大事な宝でもある妹を華麗に盗んでゆく




今はただの序章にしか過ぎない。








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