肩の上に香を乗せて、砂漠の向こうで消えていく夕日を指差した。
此処は南米チリのアタカマ砂漠。アフリカのサハラ砂漠、中国のゴビ砂漠に並ぶ、世界3大砂漠の1つである。標高は高く、いつ高山病になってもおかしくはない。慣れていないものにとっては酸素マスクが手放せない場所でもある。そんな所まで、小さな香を連れて来た遼。ことの始まりは「世界一きれいに星が見えるとこが見たい」という子供心に芽生えたロマンチックな好奇心の言葉からだった。
それであれば、日本でも星綺麗に見えるとこがあるし、そこに見せに行ったらいいのに、
遼は本格的にもそれを聞いてすぐに手配をして連れて来た。



もちろん、それを聞いた槇村は死ぬほど驚いた。そして、そんなとこに行くのは、もうちょっと大きくなってからで良いだろう、と言ったのだが、遼は香を肩車させながら、
「槇ちゃん、こういうちっこい時に見るもんが大切なんだぜ」たとえ忘れてもさ、と言った遼に、言い返せなかった。
世界中をわたり、美術品やら遺跡やら各地を周って盗みを働く遼と、それを手伝い出した槇村は、確かに香には少しばかりの不自由はあった。元々槇村とその妹である香は、古く由緒正しき旧家の生まれであったが、両親が他界した時に財産は親戚が根こそぎ取っていった。そして今は香を連れて家も出て、すべての過去や因縁も捨てた。恨みや孤独と共に。
だから兄しか家族がいない、香はずっとひよこのように着いてくるし、とても慕っている。そんな兄と仕事を組んでいる遼にも、何故か無償になついている。まあ、周りには俺と遼でファルコンしかいないのだから、仕方がないが。
だからこそ仕事で忙しくなると、小さな香を一人にしてしまうことは少なからずあった
(もちろん出来るだけ傍にはいる)

ちっこい香はほっぺを赤くさせて、もこもこに着込んでいる。全部槇村が着せたものだ。
薄ピンクの手袋をしながら遼の肩にのかって、真ん丸い顔をのぞかせながら
「きゃきゃ」声を出してご機嫌だ。ファルコンはテントを作って、何やら夕飯作りに没頭している。「香の為にすまない」槇村がそう申し訳なさそうに言えば、「いや、香の為なら良い。問題はあいつだ」といきなり仕事を中止させ、今回の砂漠行きをいきなり決定した遼を指した。
そしていよいよ夜空へと以降してきた頃合を見計らって、ファルコンは電灯を消した。





数多くのお宝を手にすることが得意である遼は香を肩車させながら、夜空に目を瞬かせた。
そこではそこにいた大人の男、三人をも息を呑んだ。
それは日本で見る空の光景が比ではなかった。電気を消したことにより、そこはただの宇宙になっていた。暗いのに、暗くはない。
星がぎっしりと下から上まで360°で映り、満遍なく途方もなくもただそこにある。
何億光年も離れてた場所から届く光。小さな香はあまりにもの光景に驚き、歓喜の声を上げて目を輝かせている。

「りょ!きれい!」


高い声で遼を呼んだ。


きれい きれい

とっても きれい!


限りなく遠くも近くもある光源。ここも星であり、宇宙の一部だ。そう、ここも宇宙だ。

「―ああ、きれいだなあ。香、」


満面の笑みでこちらを見た香は、もはや遼にとっても宇宙の、世界の一部だった。







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