バナナを食べている依頼人を見た遼はニヤニヤして何かいやらしい妄想にふけっている。その考えがわかる、なんて言いたくもないけど、長年パートナーをやっていて其れなりにあのもっこりスケベが考える事は想像できる。
「遼。あんた、その腑抜けた顔どうにかして」香は雑誌を閉じて、睨むように言った。だが遼はまるで無視。美しい依頼人にくびったけ。
「うふ。バナナおいしいよね〜、ぼくのもっこりバナ「遼ッ!」
後ろに置いていたハンマーを片手で分投げ遼の台詞事吹っ飛んだ。慌てたように依頼人は遼の元へ駆け寄るが、香は沸点が収まらず、今もしゅうしゅの頭から湯気を出している。
「遼。下品なアンタにはもうこりごり!そんなにバナナが好きならアンタの名前はこれからバナナよ!」
「へ?」
そう、あまりにもくだらない。そんなくだらない会話から始まった何気ない始まり。香は指をパチンと鳴らした。すると、何かが変わった。遼の何かが。






温かい珈琲をカップに淹れて美樹は微笑んだ。「はい、バナナさん。珈琲よ」そう言うと横に居た海坊主やミックが声を上げた。
「おいバナナ、顔色が良くないぞ」「バナナ、今日もナンパか?」
何、しけた顔してんだよ、とミックに背中を叩かれた。うるせえ、なんて呟きながら長いため息をした。

場面は変わる。そこにはご丁寧に覆面をした男。だが間抜けたことに少しずれて、顔も殆どわかれば、事前に調べていたおかげで、すべてお見通した。依頼人の彼女は奴の手中にあるが、そんなものでどちらが不利なのか、変わるはずがない。フンとガンを飛ばしてパイソンを向けた。生憎、俺はお前なんかを相手にしている暇はないんだよ。ふとそれよりも最強で最凶のパートナーが浮かんだ。あんまり手こずらせるとあいつが飛んでくる。それこそ同情する結末になるぜ。そう考えたとき、男は目を見開き、はっとしたように声を上げた。
「おお、お前は確か!シティーハンター!」
「…ほう、知ってるじゃねーか」
「その銃を持ってるってことは、裏世界bPスイーパーの…」
「ふん」
「――バナナか!!」
「………」
「くそ!バナナがいるのは予想外だったがッ」
「………」
「おいバナナ、この女がどうなってもいいのか!」
「………」







「はい、バナナ」
「……」
「バナナ?聞いている?これ、ミックから預かったものよ」
「……」
香は呆れるように当たり前にバナナ(遼)に預かった封筒を渡した。
こんなくだらない張り合いなど、すぐに終わると思っていた。だが、それはいつの間にか身内に広がり、気付けば新宿中に広がっていた。―というよりも、魔法だ。あの時、香がかけた小さな魔法は広がり、完全に遼の名は変わっていた。それも違和感なく、みんなが使い、当たり前のようになっている。
「なあ、香―」この後、遼は香に許しを請ってようやく終結した。
というか、本当は香もこの魔法はあまりにも格好が悪いなと感じていた。(本人には言ってないが)
新宿で歩いているとき、みんなから「バナナ」と呼ばわりされている遼を見た時、笑いが止まらず、その日一日中笑い転げてしまい、本当はいつも堪えていた。特に滅多に来ないシリアスな場面での「バナナ」は見事な破壊力があった。
まあ、たまには良いかなと思い、さすがにすっかり落ち込んでいたバナナ―ではなく、遼に、あたたかい珈琲を淹れた。

それから遼はバナナ(果物)を見ると妙な親近感と嫌悪感に苛まれ、とてもびみょーな気持ちになるのだった。








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