――キャッツにて

「飛んで来たんだよ、あいつ」「へえ!空も飛べるようになったの?」
さすが、魔女だわ
歓心した一同は今ここにはいない香を思い浮かべた。そんな中、遼だけはひくりと唇を上げて遠い目をした。瞼の裏にいつだってあの時の記憶は蘇る。あの時―それは、依頼人を保護した香が冴子の元へ引き渡している間。遼は港の貿易船の中で麻薬売買の組織を始末し、依頼人を付狙っていた上層部に殴りこみに行っていた。パイソンで次々と敵を翻弄させ、いつものように黒幕と対峙した時、それはやってきた…
りょー!
うっすらと聞こえた。遼は確かに香の声を聞き取り、黒幕の後ろに広がっていた大きな窓に最初は小さく、遠くの方でカモメでも飛んでいるのかと思えば、何かを見つけた。ここは船の中で最上階、軽くビル20階分は越えている。まさかな。遼は目を細め、黒幕が何か捨て台詞を言っている言葉にも集中できず、何やらどんどん近づいてくる「もの」に冷や汗が出てきた。
そして、その予感は当たってしまった。近づいてきた「もの」は窓(防弾)ガラスなど物ともせず突っ込んできた。
ばきばき、がっちゃーん、どかーん、ぐちゃあ
もはや分けがわからない爆発のような効果音が飛びかい(しかも最後の音おかしかった)、遼だけに注意を払っていた黒幕は案の定「それ」に竜巻のごとく摘み上げられると判子のように押しつぶされ、鼻血を出して白目を向き気絶をしていた。
押し花…いや、花ではない…押し(人)だ
「……」
「…二度と悪事に加担しないよう、警察に引き渡すわ!」
「……」
「これに懲りて反省することねっ」
「……」
「ね、りょう!」
「…あ?ああ、そうだな。それより何ソレ」
「え?ああ、これで飛んできのよ」

「箒じゃあなくて?」
「ええ」
「あ、そう」
香は箒ではなく乗ってきた特大スペシャルハンマーをくるりと軽々しく回すと肩にのせた。
黒幕の男はあの衝撃で泡を吹いて前歯が抜け落ち、ぴくぴくと痙攣している。しかもちょっと首が変な方向へ曲がっている様な…
もう前の威力なんて今のを見て忘れてしまった。
ていうか、あの効果音の最後、(ぐちゃあ)って言ったよな…
もしかしたら足の骨も折れてるかもしれない。右足首もおかしなことになっている。
遼はカタカタ震えるパイソンを何事もなかったかのようにそっとジャケットに直しながら、ふっと静かに思った。
(もう、ナンパするの やめよう)と。






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