「で、それで遼が―」
ストローをくるくる回しながら愚痴を零す香はため息をついては時々鼻息を荒くしては、美樹を困らせた。香はロンドンから新宿へと帰り、普通の生活へ一旦は戻った。けれど、もう今までの槇村香とは違っていた。特に彼女の性格が変わったわけではない。
それは、香がロンドンへ行って初めて覚えていた1つ目の魔法がすべての元凶だった。興味津々と美樹が最初に聞いた時、香は思い出したように興奮して話してくれた。
「何の魔法から覚えたいか、って聞かれたから思わず言ってみたのが本当にあってね!魔法って本当に素敵!」
「へえ…で、どんな魔法なの」美樹がそう聞くと、香はくすりと笑ってちらりとまた遼を見た。そして「ひみつ」またあの時のようにウインクを零した。思わずその仕草に遼は身震いをした。


そして
「遼、ただいまー」「遼、依頼人の牧子さんよ」「遼、ご飯何が良い?それとも珈琲?」




「遼ー!アイスコーヒー飲むか?」
「遼、風呂沸いてんぞ」
「遼、ほら何やってんだよ」
これはけして他人ではない。これは確かに槇村香である。だが、本人曰く今は(カオル)なのだと言う。遼はおでこに手を当て、頭を抱えた。

美樹は香の話から遼の見えない苦労を想像して苦笑いをした。―…香が初めて覚えた魔法。それは性を変える魔術だったのだ。そしてそれは今現在も口調だけではなく、性別を男に変えたままで継続されていた。これも本人曰く、「二人でシティーハンターよ!やっぱり女だったら色々不便が多いもの。でも男になれば遼も認めてくれるだろうし、仕事もやりやすいのよ!」(あ、でもトイレとお風呂さすがに女に戻るようにしてるわ)
うふふと無邪気に言っていたあの頃がもはや遠い昔のようだ。
香―いやカオルは完全に男になっていた。もともとボーイッシュだったからその素質はあったのだろうが、これほど合っているとは冴羽さんも思わなかっただろう。
というか、香がいきなり男として遼の前に登場した時、遼は―…

もはや言うまでもない。
確かに香さんはそれはそれは恵まれた容姿を持っていた。それが男になればどことないアンバランスさが入り、芸能人波のかっこよさとして浮き彫りになった。美形の青年になってしまったのだ。正直、片手にカップを持って珈琲をのむ仕草でさえも絵になっている。元は女性だとわかっている美樹でさえ見惚れてしまう。
「ん?美樹さん、どうしたの」
「ええ?いや、なんでもないの」慌てて取り繕うようにお皿を拭った。
(でも愛する女性が男になる気分ってどうなものなのかしら)
途端にファルコンが女性になった姿を想像してしまい身震いがした。
美樹はあのもっこりスケベ男だったはずの冴羽さんが、頭を抱えている姿を浮かべて思わず心の中で合掌した。
(冴羽さん どんまい!)


それから一ヶ月後、(遼に頼まれ)冴子が最終兵器である生涯でこれほど笑顔な表情があったのかと思う程の槇村の写真立てをキャッツに持ち込んで「香さん、今の姿を槇村が見たらどう思うか…」の一言であっさりとこの事件の幕は閉じるのだった。






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