「遼、私アシスタントやめるわ」「は?」
「明日には私の荷物移動させて置くから」「何、いきなり」
「しばらく新宿から―というより日本から離れる。そうね、3年くらい経ったら様子見にくるかも」
「何言ってんの」「修行に行くの」
(ロンドンにね)と香は悪戯げに笑顔で別れの挨拶をぺらぺらと紡ぎだした。その時ばかりには冗談かと思っていた遼も次の日には真っ青になって香を捜す。
というのも、朝日が昇ると共に香の荷物はきれいさっぱり消えて、置手紙と自身の写真だけを置いて香自身も消えてしまうのだから。それはどの情報網にものらない。新宿に交通手段さえもわからない。そして、ただ普通ではないことだけわかっていた。それは香が残した、香自身がのった写真が動いていたのだから。
ぺらぺらの何の変哲もない写真の中で香は黒のローブに身を包んで、遼に向かってウインクをしている。
それは止まっているのではない。一連の動作で動画のように動いている。
そして( はあい、遼!グッモーニン )と笑っているのだ。
遼はその写真を見ながら気絶しそになったのは言うまでもない。



のちにわかった事。香は新宿のスーパーで魔法使いにスカウトされ、自身に魔女の素質があるのだと気付かされた。
そして、遼の愚痴を聞いても貰う内に仲良くなり、魔法を活かした方が良いと見習いに誘われ、香は、すぐに了承してロンドンへ旅立った。とはいっても元々3年も日本を離れるわけもなく、三日で帰ってきた。それはナンパばかりに明け暮れる遼にお灸をすえる為、わざと大げさに言ったのだ。

香は全身を真っ黒に古びた皮のスーツケースを引きながら長いローブをはためかせ、とりあえず1つ目の魔法を覚えてきていた。そしてすっかり堪えて少しばかりげっそりした遼にもう一度ウインクをした。

「遼、今度は本当に向こうで暮らそうかしら」
「勘弁してくれ」
遼は苦笑いして、髪をかいた。

やはり、香がいないと日常は始まらない。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -