気だるい体を起こした。シーツを体に巻きつけ、髪を背中に払った。
「ね、もういいでしょう?早く返して」モースの方に振り向けば、彼は、くくくくと口を押さえて、不気味に笑っていた。
「なあ、エヴァン。お前は母親にそっくりだな」エヴァンはそんなモースの言葉に怪奇そうに「どういう意味」と睨んだ。何故だか、彼女の中でサイレンのように響く警報が響いていた。
「ねえ、モースあなた、母に会ったことがあるの」
「ああ」
「母はずっと父の助手だった。でも病気がちで、けして表だって出ていなかった人よ」
「ああ」
「ねえ、モースあなたは後からこの都へ来たって言ってたわよね」
「ああ、―よく覚えていたな。エヴァン」
「なら、なら何故母を知っているのッ」
エヴァンは声を上げた。シーツを握っていた拳を震わして、問い詰めた。
――そんな、まさか
その途端エヴァンは真っ白になった。思考が追いつかない。ねえ、嘘よ。こんなのおかしい。嘘、嘘、うそうそうそうそ「あんた―」エヴァンはそう自身で紡いだ瞬間、シーツを床に投げ捨てモースに飛び乗った。 モースはゲラゲラと声を上げて愉快気に笑っていた。
「たまたまだった。運が悪かっただけさ。その時はお前の母親だった事なんて知らなくば、お前さえも知らなかった。随分大事そうに瓶を抱えていたから、酒かと思って奪ってやろうとしたら、どうにも渡さなかったもんで、殴ったら血を流して死んでいたんだよ」
「そんな、そんな」
「仕方がなかったのさ。後は自殺に見えるように細工して医者に金を渡した」
「うそよ―」
「あんまりにも上手くいったから驚いたぜ。しかも半年後買った女が、半年前俺が殺した女にそっくりとは」
「返して」
「あ?」
「母を、返して」
エヴァンの頬から涙が流れた。髪を振り乱し、モースの胸を何度も叩いた。馬鹿みたいだ。母は殺されていた。しかもこの男に。そして私はこの男に何度も何度も―
口にするのすら恐ろしい。こんな、こんな、こんな―
「お前の母親が持っていた小瓶をどうしたと思う?」
「――」
「エヴァン。お前は利口だろう」
「ああ、うう」
「あの連中とはもう会うな」燃えるような髪が揺れて、こちらを振り向くソルトと少年が見えた。「お前はもう誰とだって口を聞いていい訳がない」モースはエヴァンの顎を片手で掴むと小瓶の装飾や形を言い当て、自身がまだ持っているという事を繰り返し、繰り返し、呪文のようにエヴァンの耳元で唱えた。
「エヴァン、逆らうなよ」



それからやっと解放されたエヴァン。念押しに、ソルトへ「もう会わない」と自身の口から告げて来い言われた。(もちろん後ろ盾で俺が支持していると見せかけるな。もしそうなれば、どうなるか分かっているな)そう、何度も言われた。
ぽつぽつと雨が頬を伝い、しだいに大雨になり、服を濡らしていく。そして、ああ、と膝をついた。種も水もどちらもあいつが持っている。結局モースの呪縛から逃れることは出来ない。結局、何かを失ったまま、生きていくしかない。もう死にたい。エヴァンスは空っぽになった。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -