エヴァンは美しく頭も良い。元々薬師の家系だった為、その知識は幅広く持ち合わせていた。しかし、薬師になるにはそれなりの技術だけではなく、一定期間の見習いを経て多くの事を学ばなければならない。その為には独学からではなく、きちんと専門の所に所属しなければならなかった。しかし、それには一定のお金がなければならない。
父も母を亡くしたエヴァンに選択の余地はなかった。その髪も瞳も肌も。今となっては、モースという男に囚われた哀れな娼婦。


モースはあれ以降、エヴァンに会いにくることもなかった。そして顔を見せることも。あの一件以来、ソルトはエヴァンを心配し彼女の元へ寄るようになった。だがそんな風にエヴァンに会いに行くソルトをよそ者のまじない師の弟子という事で嫌う人もいる。また、娼婦のエヴァンの元へ行っているともなればよけいだった。
元々「ローラン」という薬師の家系だったとしても、今は娼婦。哀れに見る者もあれば、あまり良く思っていない人もいる。些か冷たい雰囲気には気付いていたが、ソルトはそんな人々の事は気にせず、エヴァンと変わらずいつものように接した。
そんな人目も気にしないソルトは、エヴァンにとって不思議な存在だった。その目立つ髪色だけではない、ソルト自身が放つオーラはとても眩しかった。そしてずっとこの都で外に出たことがなかったエヴァンは、ソルトが話す勝手気ままな旅の話はとても興味深く、面白く感じた。時々笑いが止まらなくなって、何度も目の涙を拭った、ソルトはそんなエヴァンの様子を見れば、もっともっとある、とばかりに色んな話をしては笑った。純粋で無垢だが、とても気のきく子だ。エヴァンは目を細めた。
「ねえ、ソルトはまじないを使えるの」エヴァンが尋ねると「…あー本当いうと、私は才能がないみたい」ソルトは一瞬眉を寄せて、それでも仕方がないとばかりに頬をかいた。
「でも先生は特に何も言わないし、別に強要も理を説くわけでもないの」明るく言って、両手を腰に当てた。もう随分前に諦めちゃった。なんて、あんまりにも明るく言うものだから、エヴァンは思わずポカンとしてしまった。それでもソルトは気にせず、次の話題について言葉を紡いだ。

そうして時々、エヴァンはソルトの髪を梳いてくれた。そしてソルトに言い聞かせた。
「女の子はね、身なりはきちんとしなきゃ駄目よ」ソルトの持つ魅力、それは少年のような少女。そのかぎりのないアンバランスな魅力は滲み出ているが、ソルト自身はそれに気づいてない。赤い髪を梳かしながら、時折ソルトに香水や肌に良い薬草のエキスや、身だしなみや髪型のことを教えてくれた。
そしてもう1つ、エヴァンが気になったこと、それはあの少年だ。漆黒の眼は、少年にしてはとても大人びているものだった。いや、容姿と魂が伴っていないように感じた。
それはあのモースを気絶させた瞬間から引っかかっていた。あんな少年が普通であれば出来ないであろう、あの力。そんな彼をソルトは「番犬なの」と言って笑っていた。
それ以上は聞いていない。
なんとなく、あのソルトにも狼にも誰にだって触れて欲しくない境界線はあるものだから。


そんなエヴァンは1年前母を亡くす。だがそれは普通の最後ではなかった。それは父の跡を継いで種の研究をしていた最終段階、エヴァンの母である、
ユーリア=リーフは種の発芽に特別な「水」がいると気づき、遠くの水の町で有名だった山河から取り寄せ、自身の研究の成果をその結晶化し「水」に反映させた。あとはそれを種に撒くだけ。
が、結局父の作業場から帰ることなく、都の風車の近くで自殺をしていた。
もう一つの家で種の発芽を待つのと同時に母の帰りを待っていたエヴァンは駆けつける。
自殺の原因は発芽の失敗が原因だと考えられた。
母が大事に持っていた「水」はなく、種も発芽することなく残っていた。
そこからエヴァンの人生は転落する。
美しかったエヴァン。独り身になれば、それを狙う者は多く、財産は騙され奪われることになる。
父が亡くなって、作業場で払っていた家賃も払えなくなり売り飛ばすしかなくなった。
結局残されたものは種と身一つだけだった。







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